二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

君に幸あれ

INDEX|1ページ/1ページ|

 
久しぶりに珊瑚のもとを訪ねようと村へ歩いていた琥珀は、村はずれの丘の上にりんが立っているのをみつけた。空を見上げている。
「りん!」
りんが振り向く。
「琥珀!久しぶり!帰ってきたの?」
ああとうなずきながら、りんの傍へいくと、向こうの空に、飛び去っていく殺生丸の姿が見えた。
「殺生丸様が来てたのかい?」
「うん。珍しい木の実を持ってきてくれたの」
そう言ってりんは籠にもられた赤い実を琥珀に見せた。
「殺生丸様ってけっこうマメなんだなあ」琥珀は殺生丸の意外な一面を見たようが気がした。
「でも、今日は忙しいので、この実を置いて、すぐ帰っちゃったの」
「そうか。相変わらず妖怪たちと闘っているのかなあ」
「うん。邪見様が、殺生丸様は闘いに生きる方だっていってた。天下を制覇するまで闘い続けるんだって」
「殺生丸様にかなうやつなんて、もういそうにないけどなあ」
琥珀は、爆砕牙を手にしてますます強くなった殺生丸の姿を思い浮かべた。
「邪見様はいいなあ・・・」
「りん?」
「邪見様はいつも殺生丸様と一緒だもの。同じ妖怪だから、殺生丸様と一緒に闘えるものね。りんはじゃまになるばかりだから・・・」
そうつぶやいたりんの横顔は笑みを浮かべてはいたが、ひどくさみしそうだった。


「りん。りんは、殺生丸様のところへ行きたいのかい?」
琥珀が優しくたずねる。
「うん・・・。ほんとは、昔みたいにずっと殺生丸様と邪見様と一緒にいたい。でもね・・・それはりんのわがままだってわかっているんだ。殺生丸様の闘いの邪魔になるだけだから・・・だから・・」
りんは大きく息をすって、言葉を継いだ。
「だから、いいの。今のままで。時々殺生丸様は訪ねてきてくれるし。それだけでも、とても嬉しいんもん。これ以上望んじゃ望みすぎだもん。楓様もみんなもすごく親切にしてくれるし」
りんは笑顔を浮かべて琥珀の方を見る。その笑顔が琥珀にはいろいろなものを押し殺したような笑顔に思えた。


「・・・・・りん。殺生丸様の母上様のところへ行ったときのこと覚えてる?」
「うん。母上様がりんのこと冥界から救ってくれたんだよね」
「ああ。あの時、俺も殺生丸様と冥界にいた。でも、りん、お前が息をしてないと気づいて・・・。殺生丸様は冥界の主を斬れば、りんが生き返ると思って必死に天性牙を振るったんだ。でも、りんは生き返らなかった・・・。その時、殺生丸様は天生牙を捨てたんだ」
「天生牙を?」
「ああ。刀を手から落として・・・。殺生丸様はりんのことを抱いていたよ。冥界の主を斬ったのになぜりんが目を覚まさないのかと、すごい形相で。りんのことを右腕できつく抱きしめていた。あの時の殺生丸様は天生牙のことなんて眼中になかった。ただ、りんを失ってしまった悲しみで呆然としていた。俺には殺生丸様が泣いているようにみえたよ」
「殺生丸様が・・・」
「ああ。りん、それに、母上様のおかげでお前が息を吹き返したときの殺生丸様といったら・・・。お前はよく覚えていないかもしれないが、あの時の殺生丸様の顔は忘れられない。りんを取り戻した喜びで震えていたよ。あんな殺生丸様の顔、初めて見た。あの時の殺生丸様のお前を見る目・・・。りんのこと大事で大事でしかたないって風だったよ。あの殺生丸様がりんのこと、やさしくなでていただろう?」
「うん。あの時はりんも嬉しかった。殺生丸様が頬をなでてくれて・・」
「りん。殺生丸様をあんなに悲しませたり、喜ばせたりする存在って、お前しかいないよ。いつもあんなに冷静な殺生丸様の心をあれほど動かすことができるやつなんて、りんの他には誰一人いないんだ」
「琥珀・・・」
「あの時、俺はそれがよくわかった。だから、俺は・・・」
「え?」
「いや、何でもない。りん、殺生丸様の気持ちはきっと決っているよ。りんはただ自分の気持ちに素直になればいいだけさ」
「素直に?」
「そうさ。りんは本当はどうしたいの?」
「りんは・・・殺生丸様と一緒にいたい。ずっと、ずっと一緒にいたい」
「じゃあ、そう伝えればいいさ。殺生丸様に、まっすぐに、さ」
「本当にそうしてもいいのかな?」
「殺生丸様とりんのことは、二人にしか決められないよ。でも、殺生丸様はりんの本当の気持ち知りたいと思う。待っているはずだよ、りんの言葉を」
「そうかな?」
「殺生丸様がなぜたびたびにこの村へやってくるのだと思う?」
「りんにおみやげを届けに?」
「それは「言い訳」さ。りんの決心を待っているのさ。りんが選ぶのを待っているのだと思うよ」
「りんは決っているよ、もうとっくに。選んでいいのなら、わがまま言っていいのなら、殺生丸様だけだよ、りんが傍にいたいのは」
その言葉を聞いて、琥珀の心はちくりと痛んだ。


(そう、殺生丸様とりんの間には誰も入り込めない。二人の間には・・・)


「りん。それは俺じゃなくて、殺生丸様にいわないとね。さ、おせっかいはここまで!俺は姉上のところに顔見せてくるから」
「うん!ありがとう、琥珀」
りんは今度は心からの笑顔を浮かべた。


(いい笑顔だ・・・)


しかし、この笑顔は、自分のものではない。りんのすべては殺生丸様のもの。

そして殺生丸様もりんにすべてを与えるだろう。惜しみなく、すべてを。命さえも。

あの冥界での経験をへて、琥珀にはそれはあまりにも明白だった。


(しあわせに、りん・・・)
琥珀は心の中でつぶやいて、その場を去っていった。


りんが殺生丸のもとへ行くことを選ぶ日は近いだろう。あの二人はお互いしかありえない。

琥珀は自分の気持ちを振り切るように、珊瑚の家へ向かって駆け出した。

作品名:君に幸あれ 作家名:なつの