LET ME BE
いつだって笑顔でいてほしい。
だけど、まだ子どもの俺にはそんなことをちゃんと相手に伝えられるわけではなくて。
どんな言葉を言えば、歌えば、彼女にそれが伝わるんだろう?
「レン、なぁに? 話って」
リンはいつもと変わらない顔で、声で俺を見ている。
俺はそんなリンに意を決して口を開く。
「・・・リン。リンにさ、もし、もしもだよ? とてもとても好きな人ができたら、その・・・俺のことなんか忘れて、その人と絶対に幸せになれよ?」
コツン、とおでこをリンのおでこにつけてまるで自分に言い聞かせるように言葉を紡ぐ。
リンはぽかんとした表情をした。
大きな瞳がさらに大きく見開かれる。
「・・・何で、そんなこと言うの?」
その声と、瞳に射抜かれたような気がして思わず顔を離す。
「・・・別に、ただそう思ったから言っただけだよ」
本当は、そんなこと考えたこともない。
もしも本当にリンに俺より大切な人が現われて俺のことなんて忘れてしまったら、俺はきっと気が狂ってしまうに違いない。
そこまで考えて何も言わないリンを振り返る。
リンは、大きな瞳いっぱいに涙を浮かべていた。
ぎょっとする俺が言葉を発する前にリンは口を開いた。
「・・・レンの、ばかぁ」
その言葉を合図に涙が零れ落ちる。
「わゎっ・・・リ、リン!」
大声で泣き出したリンを思わず駆け寄って抱き締めていた。
「ご・・・ごめん」
「謝るくらいなら最初から言うな、ばかぁ」
ごもっとも。
返す言葉もない。
泣き続けるリンにポカポカ叩かれながら俺は考える。
確か俺はリンに幸せでいてほしい、笑顔でいてほしいと思っていたんじゃなかったっけ?
それなのになぜ俺はリンを泣かせてるんだろう?
「ごめん・・・ごめんな、リン。もう絶対言わないから」
リンの髪をなでながら祈るようにつぶやく。
言い訳になってしまうけれど、俺はまだ子どもだからうまく自分の気持ちを相手に伝えることはできなくて。
恐る恐るリンの顔をのぞきこむと、大粒の涙は止まっていた。
俺がもう少し大人になって、もう少し自分の気持ちをうまく伝える術を手に入れたらいつの日かきっと。
リンと目が合う。
リンはにっこりと笑い、俺も照れながら笑っておでこをつけた。
いつの日かきっと。
君に、愛の歌を届けるよ。