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ハイイロオオカミでマフィア企画

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リヴファミリーのとある一幕



キィ、と音を立てて李織が扉をあけると、すぐに人の足が目に入った。

部屋の中央にシックでどっしりとしたローテーブルが置かれ、それを囲むように四方に二人掛けと一人掛けのソファがそれぞれ配置されている。
その部屋の一番奥に位置し、部屋の入り口から真正面に対峙して見える一人掛けソファに誰かが深く腰掛け、足を組んだ状態でテーブルの上に乗せているのだった。

「………」

無言で部屋の中を見回すと、その左隣に位置する二人掛けソファにマックがゆったりと座って本を広げているのが目にとまった。
その視線に気づいたのかマックが少しだけ顔をあげて李織を見る。

「おかえり」

それだけ言うとまた本に視線を戻してしまう。
夢中で読みふけっているところを見ると、最近はまっていると言っていたポアロを読んでいるに違いない。

「あぁ」

李織は短く答えて扉を閉める。
正面の人物はそのやりとりの最中ピクリとも動かなかった。
李織は顔をしかめて、胸元のネクタイをゆるめながら奥へ向かって歩き出す。

正面の人物は深く腰掛けているというよりは椅子部分から半分ずり落ちているような姿勢で座っていた。
両肘を肘掛に乗せ、本来頭に乗せるべき黒い中折ハットが顔の上に乗っている。
この状態ではそこにいるのが誰であるかを顔で判断することはできないが、このファミリーに所属する人間で深い蒼色をした髪を持ち、この中折ハットを愛用している人間を李織は一人しか知らなかった。

「おい」

ソファの横に立ち声をかけるが返事はない。
ちらりとマックに目をやるとマックは本を閉じて軽く肩をすくめた。
その様子と規則的な呼吸を見る限りどうやら彼はすっかり夢の世界へと旅立ってしまっているらしい。

はぁ、とため息をついてから李織は大きく息を吸い込んだ。
その様子を見てマックが素早く耳をふさぐ。

「起きろーーーーーーーーー!!」

彼の耳元に向かってあらん限りの大声で叫ぶ。
彼の体は文字通り飛び上がってその拍子にバランスを崩し、派手な音をたててソファから転がり落ちた。

「ってぇー…」
「目が覚めたか? 蒼紀」

その声に頭を押さえていた蒼紀が顔をあげる。
李織の姿を認めると眉をつりあげた。

「李織、てめッ…」
「人がせっかくお前のために情報を仕入れに行ってやってたってのに居眠り…ねぇ?」

李織がソファの背もたれに肘をついたかっこうで上から蒼紀の顔をのぞきこむと蒼紀はたじろいだ。

「そ、それは…李織帰ってくんのおせーからつい…」
「つい? つい、何?」
「う…」

李織にじりじりと詰め寄られて蒼紀は後ずさる。

「はいはい、そこまで。そのくらいにしてやってよ。ぼくも李織が仕入れてきた情報に興味あるし」

マックが近くに落ちていた蒼紀の中折ハットを拾い上げて床に座り込んだままの蒼紀の頭に乗せる。
それを見てようやく李織は近づけていた顔を離した。

「・・・やっぱり、おれたちのシマを荒らしてるのはムシクイファミリーのやつらだ」

体制を整えて口を開いた李織のその言葉に、マックも、帽子をかぶり直しながら立ち上がった蒼紀もさっと表情を変える。

「黒いメッシュの入ったグレーの髪に金色と赤のオッドアイの男を見たってやつがいた」
「コオルか…」
「どうする? 蒼紀」

マックが真剣な目で蒼紀を見た。
李織も同じように蒼紀を見る。

「どうするって…決まってんだろ」

蒼紀はソファに腰をおろし、足を組んだ。
不敵な笑みを浮かべる。

「やつらをシメるぞ」

その言葉に、マックと李織は待ってましたとばかりに力強くうなずいた。