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こた@ついった
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イタリア兄弟が旅にでたようです - 第二話

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<紅の真実>

「何か薄暗い道だね・・・・・・」
「う、うううるっせーバカ弟っ。前見て歩かねぇと転ぶぞ」
 アーチのように聳え立つ木々をキョロキョロと見回しながら、ヴェネチアーノは恐怖を拭おうと必死になって明るいことを考えようとした。兄の助言通り、前を見て歩いたが「この先に何があるのだろう」と落ち着かない。手を繋ぎたかったが、言っても無駄だろうと諦める。
「ん? 何かあるぞ」
 ロマーノが、行く手に何か物を見つけた。道のど真ん中に置いてあるそれは、まだよく見えない遠さだ。助けになるものかもしれない、とロマーノは希望を見つけて喜んだ。
 怖がる弟を引っ張ってぐいぐい進んでゆく。
「あ、あれ看板だね。良かった〜。怖いものかと思ったよ」
 妙な形をした看板だ。一メートルほど先にドンと立っている看板はまるで道を遮っているようで、ロマーノは眉を顰めた。
「危ないものかもしれねぇぞ。何か書いてあるな、何だ・・・?」
 横から何か吹っ飛んでくるかもしれない、と用心深くそうっと、ロマーノは看板に近付いた。
【君達は道を誤った。真実は紅の実にある】
 ロマーノの後ろからヴェネチアーノが心配そうに覗いた。看板に書いてある文字は国達が共通して使える言葉(日丸語といった)で書かれており、その内容をはっきりと目にして、ロマーノとヴェネチアーノは目を瞬かせた。ロマーノの背にほとんど隠れるようにしていたヴェネチアーノは疑問符を浮かべて看板をよく見ようと首を伸ばした。
 しかし何度見ても内容は変わらないし、新発見もない。
「とりあえず、この道は違うってことは解った」
「うん。だけど、紅の実って何だろう?」
「紅で、実って・・・トマトとか?」
「あ、そうだね! 赤いトマトだー」
 看板の前でふたりは早合点し、トマトだそうだ、とうんうん頷いている。希望がともったのか暗い森もふたりには明るく見えた。
 ふたりは知らない。看板のすぐ傍、ふたりの傍には目に見えない(ある一名を除いて)妖精の類が指差して笑い転げているのを。
「で、トマトが何なんだ? トマトが真実を知ってるってことか・・・?」
「う〜ん、兄ちゃん、トマト持ってきてるんだよね。何か書いたりした?」
 ロマーノは否、と首を横に振る。ふたりの空気は再び元に戻りつつあった。
 トマトといえば、この周辺にその姿は見えないが、ロマーノはいくつか持ってきているのだ。それに何かあるのかもしれない、とふたりは考え、トマトを取り出した。が、何もない。ただの、よく熟した出来のいい良質トマト。煌々と輝く太陽にかざしてみたり、看板に近付けてみたり、果てには左右に振って匂いを嗅いでもみた。しかし何の変哲もない真っ赤なトマトだということに変わりはない。
「トマトに訊けとでも言うのかよ」
 掌で艶やかに赤さを煌かせているトマトを仏頂面で眺めながら、訳も解らずロマーノは呟いた。大好きなトマトに裏切られた気分だった。
「トマトとお話できればいいのにねー」
「この看板作ったやつは話せるのかよ」
 さすがに野菜とは話せまい。
 ふたりの会話をきいて涙を流す者がいるのをふたりは知る由もなかった。モニターの向こうで、日本こそトマトに問いたい。どうして貴方は真っ赤なのですか。
「でも兄ちゃん。俺達がトマトとお話できても、きっと教えてくれないと思うよ」
「何でだ?」
「だって、毎日トマトいーっぱい食べてるんだもの。俺、今朝はトマトたっぷりのピッツァ食べたよ」
「そうだな・・・。友達を喰うやつには教えてくれないよな。俺達で解決ってことか」
 ごめんねトマトさん、とヴェネチアーノが暢気に呟いた。そしてトマトを仕舞うと、看板を見てヴェーとうなった。この看板に出会って、一体どれほどの時間が経ったのだろうか。じきに夜が来てしまう。はやく森を抜けなければ。
 しかし焦ったところで看板も、むろんトマトも何も教えてくれない。モニターの向こうにいる日本は助けたくてうずうずしているがそうはいかない。
「とりあえず、戻るぞ」
「いえっさー」
 結局何も解らないまま、ふたりは看板を後にした。来た道、それも一本道を戻るのは容易かった。急いでいたこともあってか、何らかのシステムが作動(させたのが誰かは言うまい)したのか知れないが、あっという間にふたりは、三つまたになっている道の前に立っていた。
 ふたりはやはり、赤いリンゴが見て見て、と輝いているのに気付かなかった。
「どっち行こうか」
 ヴェネチアーノがおそるおそる訊ねた。早くこの森から出たい、と切に思っていた。
「真ん中には危ないモンがあるのがセオリーだ。左が妥当だな」
 ロマーノも同様に、ヴェネチアーノと同じ気持ちだった。言い終えるやいなや、ヴェネチアーノの手を引っ張って一番左の道へ進んでいった。
 左の道は正規ルートである。日本は歓喜した。


  *  *  *  *  *  *  


「は? イタリア達がいない?」
 ドイツは受話器に向かって首を傾げた。
『そう、おらんのや。今朝、ロマーノに会いにいったんて。したら家に誰もおらんかってん。あ、イタちゃんがよく使っとるパスタ鍋がなくなっとった』
「ほう・・・。どこかに出掛けたのではないか?」
 電話の相手はスペインだ。自宅に持ち込んだ仕事を淡々とこなしていたドイツのもとにかかってきたのだ。スペインからの電話は珍しく、それもやや焦っているように感じられる声に、何があったのかと思えばイタリア兄弟がいないという。
 あのふたりがどこかにフラッといなくなるのはよくあることだ。別段、珍しくもない。そう伝えると、決して小さくはないパスタ鍋を持って歩くイタリアの姿が頭に浮かんだ。
『最初は俺もそう思うたんやけど、部屋は直前までひとがいたみたいに見えるし、携帯が繋がらないしで、もう何かあったんとちゃうかなって・・・・・・』
「繋がらないのか・・・。その様子だと事件性も、なくはないな。とりあえず事は広めずに俺達で捜索をしよう」
 ドイツもいよいよ焦りを感じてきた。イタリア兄弟の携帯はどこにいても繋がる最新型であり、ドイツが毎晩のように「充電しろ」と言っているために充電切れなんてこともないはずだ。部屋がそのままになっているのも怪しい。しかし、パスタ鍋は?
『どないしたらええん。手がかりとか、何もあらへんよ』
 探偵気分になっていそうなスペインの言葉に、ドイツは逡巡し、最初の指示を出した。
「まず、フランスとオーストリアに連絡だ。あのふたりは何か知っていそうだからな。何もなければ、一緒に探してもらおう。俺はイタリア達の家に行ってみる」
 一抹の不安が頭をよぎる。ドイツはスペインの返事を受けて、行動を開始した。


続く