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#556b2f

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「ん。

やあこんにちは。すてきな風の日ですね。
今?
ああ、今そこから落ちてた人。
そう、恋人。私の。
恋人だった。
死んだよ、きっと。
……ああ、生きてたら恐い。
ここから下まで高さどのくらいあるか?
知らない。
とりあえずだから、君が死ぬならもうちょっと向こうに行ってくれないか。毎年花を添えるのに、君の分まで持って来なきゃいけないのは面倒だ。
…………あ、っそう。死なない、ふぅん。なんでこんな所に?
まあいいが。
花?そう。毎年命日に。
恋人だから。
花が好きだったんだよ。
種類なんてろくに知らないくせに綺麗だって。いつもテーブルなんかに飾ってた。
一輪、白いのを。
報われるなんて思ってない、けど、気持ちの問題だと思うから。

風が強いな。
ああ、愛してたよ。恋人だから。多分ね。
世界で一番、誰よりも愛してた。
……お見通し?
そうだよ嘘だ。
一番好きなのは自分。二番目に、愛してた。
でも、自分以外の何かって意味では確実に一番だったよ。
愛してた。
違う、愛してる。今でも好きだよ。
…………恋人だから?
あー、違う、な。愛してたから恋人にした。
あっちはほら、自分の意志なんてあって無いような物で、
ただ恋人になれっていえばなっただろうし、殺してくれっていえばきっと、
そう、そんな関係。でも愛してた。
そればっかで悪いが。ボキャブラリー貧困なんだよ。
こう見ると……見たく無い?
無理にとは言わ無いが。
遠くてよく解らないけれど、動かない。手足変な方向いて血も広がって。
死んでるだろ。
それでも変わんないんだよ。何かが愛しい。
あんなにぐちゃぐちゃでもそう思える程度には愛してたよ。
二番目だったけど。
歌が好きで、それが聴けないのは寂しいけど。
そうそう、歌。
うま……かったよ。うん、調子外した事なんか無かった。
ヴィヴラート。ブレス。難しい事は解らないけれど、多分完璧だった。
で、それに併せて一緒に演奏するのが好きで、ああ、そう楽器。
うん?
そう、私が。弾くさ。見えない?
何やってるように見える?
は?マラカス?
もう少し、弦楽器なり鍵盤楽器なり選択肢もあるだろうが。
うん、まあ何でも良い。
今はあいつの話。
一緒に歌ったり適当に鍵盤叩いてると、ああ、楽しかったんだよ。
あいつ普段は笑うのが下手糞で、葬式みたいな顔して唇だけこうちょっと端っこつり上げて笑う癖に、
歌ってる時はすごく、普通に笑うんだよ。
その顔が好きだったんだが、もう見れないな。
潰れてる。
それは、寂しい、かもしれない。

本当に従順だった。
愛せといば愛してくれたし、殺せと願えば、そうしようともがいてくれた。
……ああ。
そう。
そうだよ。
私が殺したんだ。
ここから飛び降りろと、死んでしまえと言って、あいつがそれに従った結果だよ。
哀しいし寂しいし愛していだけど、嬉しいんだよ。それが。
こんな事が。
ああ、で、お前は誰だったか。
悪魔?死神?
何でも良いが。
仕事ならさっさとしてくれないか。

そろそろ語り飽きた。


そうだ、死んだら花にでもなろう。
花を咲かせる土塊でにもなろう。
命日だけなんて言わずにずっとここで咲かせるように」

一方的に彼はそう語って、先程のそれを同じ形で低い手すりを蹴って落ちた。
その上ですべてを聞いていた一匹の芋虫は短い脚を強張らせ、錆だらけのざらついた表面にしばらくはしがみついていたけれど、
一際強くごうと吹いた風にあおられて、ついに草むらへ落ちた。
業々となる風の中。

作品名:#556b2f 作家名:上上下下