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ぐらにる 流れ おやすみ

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今回は、久しぶりに単独で降下した。それというのも、地上の施設での仕事が入っていたからだ。機体が完成していない今、マイスターは訓練以外は比較的時間があるので、そちらの用件も入ってくる。とはいっても、地上施設での新しいMSのデータ作りなんてものだから、物騒な用件ではなかった。とはいうものの、何時間もライフルで目標を狙い続けるのは、正直、神経が疲れる。それも一日ではなく、数日間に渡って延々と目標を撃ち続けるというものだった。十日間、それに付き合って、三日の休暇は貰った。


 連絡もなしに、安眠抱き枕の許を訪れると留守の場合もある。相手も、時間が不規則な仕事だから自宅に戻ってくるとは限らない。だが、なぜだか、ここだと悪夢も見ないで眠れるので、抱き枕なしでも困ることはない。どうやら、長いこと、ここの住人は戻っていないらしく、うっすらと埃が積もっているような状態だった。明日にでも掃除してやろうと思って、そのまま寝室に出向いたら、そこだけは人の気配がある。明かりを点けたら、ベッドに倒れ臥している住人が居たからだ。青い制服のまま、ベッドカバーも捲りあげずに、だ。

・・・・え?・・・・


 倒れているのかと慌てて、身体を抱き起こしたら、ふぁーっと大きな欠伸をした。そして、シパシパと目を瞬かせて俺を見る。 それから、ふわりと微笑んだ。
「大丈夫か? 」
「・・・・ようこそ、茨の城へ。私の眠り姫。」
 なんとも暢気な挨拶に、倒れていたのではないらしいと気付いた。ただ単に寝ていたらしい。なんて、バカバカしい寝姿なんだ、と、呆れて俺も笑った。
「あんたのほうが、今確実に眠り姫だったけどな。」
「ああ、なんとか毎日、こちらに帰ろうと努力していたんだが、これが、なかなかハードでね。」
 ゆっくりと起き上がって住人は、頭を掻いている。毎日? ここには、毎日、世話をしてやらなければならない観葉植物も動物もいない。それに、この男の仕事は、オフィスワーカーのような仕事でもない。それなのに、毎日とは、どういうことだろうと疑問に思った。
「毎日って、なんで? 」
「きみの協力者から、とても曖昧な情報が送られてきたんだ。三日前くらいから明後日までのどこかで、きみが現れるというものでね。だから、三日前から、こちらに毎日、帰るようにしていたんだ。さすがに、飛行データを取る仕事の連続で、力尽きていたところだ。」
 ここのところ、俺が『気晴らし』をする時は、先に刹那が、この男に到着を告げているらしく 、すれ違うことはなくなっていた。さすがに、今回は、仕事があったから、そういう内容だったのだろう。そこまで律儀にしなくていいねと、言いたいところだが、きっちりと、ここへ行くとバレているのも、なんだか情けない気がする。
「仕事があって、いつ来られるか、曖昧だったんだ。」
「ということは、姫も仕事明けか? 」
「そういうことだ。俺のもデータを取る仕事だったから疲れたよ。それで、ゆっくり眠りたくて遠征してきた。」
 三日間の休暇だから、どこかでのんびりしていればいいのだが、疲れると途端に悪魔に苛まれるので、わざわざ、ここまで出張ってきた。この男の寝室というのがいいのか、この男の匂いがいいのか、ここでは一人で寝ても、ぐっすりと眠れるからだ。
「なるほど。会いたかったよ、姫。」
「無理しなくていいぜ? グラハム。」
「ああ、さすがに、きみを抱くだけの体力は残っていないな、一眠りさせてもらってもいいだろうか? 」
「俺も寝かせてくれ。・・・・疲れた。」
「では、我が褥へ? 」
「ああ。」
 二人して上着を脱いで、ベッドへ入る。どうやら、この男は、ベッドに毎度、ダイブしていたらしくシーツはキレイなままだ。マトモな思考の男ではないのは、毎度のことだが、生活態度ぐらいはマトモなことをして欲しいとは思う。 触れるだけのキスをして、グラハムは俺を抱きこむように腕枕する。
「そこまで無理させて悪かったな。」
「なんの、姫のためとあらば、サボタージュも辞さない覚悟だ。」
「いや、そこまでは・・・・」
 そこまで言いかけて、とろりと目が閉じていく。この男の匂いに包まれただけで、どうも眠りが訪れるらしい。安眠抱き枕とは、我ながらよく言ったものだ。ごめん、と言えか微妙な感じで、すっと眠りに引き込まれた。


 顔を見た途端に、眠られてしまった。姫だって、人のことは言えないだろう。疲れてくたくたになって強行軍で、ここまでやってきたのだ。それも、私が居るか居ないかわからないというのに。ここでなら、ゆっくりと眠れると姫は言う。それこそが、私にも嬉しいことだ。ここでなら、姫は安心できるということに他ならない。

・・・・仕事を前倒しで詰めて良かった。明日一日くらいなら休める。・・・・


 協力者からの情報では、残り二日が有力だと送られてきた。だから、その二日を休みにするべく仕事を詰めて終わらせたのだ。くったりと力の抜けた姫の身体を抱き締めて、私も姫の香りを嗅ぐ。硝煙の匂いが微かに残っているのが、姫の仕事を物語っている。
 いつか、どちらもが仕事をしなくなればいいのだが、生憎と終わりそうにない仕事だ。こうやって会えるのも、いつか終わるかもしれない。

・・・・だが、その時までは、きみの安眠抱き枕でいよう。それは約束するよ? 姫・・・・・

 抱き締める体温で、私も眠りに誘われる。明日、目が覚めたら、この姫の身体に痕をつけて、再び、この茨の城へ戻る呪いをかけておこう。

作品名:ぐらにる 流れ おやすみ 作家名:篠義