さいきんのはなし
君がこの手紙を読んでいる頃には、僕はスッカリ殺菌されていることでしょう。
先ほど保健所の職員にキツい消毒液をかけられました。正直最後まで手紙を書ききれるかも分かりませんが、僕が消えてしまう前に、本当の気持ちを君に知っておいて欲しくて最後の力を振り絞って筆をとりました。
君は自分のアンパンではない部分が何でできているか考えたことはありますか?僕は物心ついた時からバイキンと呼ばれ、忌み嫌われるうちに、バイキンって何だろう?という強い疑問を抱かずにはいられませんでした。
バイキン、、、この言葉を聞いた人は皆顔をしかめます。なぜならその存在は人々の健康を害するからです。
しかし一口にバイキンといっても、細菌、菌、ウイルスなど様々です。僕は一体何者だろう?
先日かねてより僕のDNA鑑定をお願いしていたマサチューセッツ工科大学のジョンFハワード博士より鑑定結果を知らせるお手紙が届きました。
震える指で封を開け、中を読みました。そこにはDNA鑑定をしてみたが、僕のDNAはどの生物とも一致しない。よって僕が何者か知る術はないということが書かれていました。そして手紙はこう締めくくられていました。
「君に感染した者がどういった症状を起こすから分からない。ただ有害であることは疑う余地はない。まるで君は、世の中の悪を擬人化するために生み出された何かのキャラクターのようだ。」と、、、
ハヒフヘホ
力なく笑うしかありませんでした。正直博士の手紙を読むまでは小さな希望を持っていました。自分がひょっとしたらビフィズス菌や納豆菌などの有用な微生物なのではないかと。しかし鑑定結果は僕の正体を明らかにせず、ただ害のあるもの、、、博士の言葉を借りるなら擬人化された悪であると決め付ける絶望的なものでした。
もう疲れました。偽悪的に振舞うことにも、そして何もかもに、
そろそろお別れの時間がきたようです。もうハ行を最後まで言いきる力も残っていません。
もしも生まれ変わるなら、今度はイースト菌に生まれて君の顔を膨らましたい。
愛と勇気の愛をください
君のそばに生まれ変わるために
愛と勇気の勇気をください
君をためらうことなく友と呼ぶために
願わくはこの先、君を膨らましたイースト菌がかつてバイキンと呼ばれた男の生まれ変わりである可能性に思いを馳せてください。
これが本当に最後です。
ではバイバイキン