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漆黒と純白・3

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ノックは三回がこの組織での鉄則だが耀が菊の自室に入る時だけはノックを四回する事、と二人の約束だった。
はい、と扉越しから濁った声の返事が来る。
静かにドアノブを回し、扉を押すと蝶番が音を立てて扉が開かれた。
部屋には大きな窓ガラスの前に置かれた資料や本の山が無造作に積んであるデスクの後ろで脚を組みながら緑茶を啜る菊が居た。
逆光なので表情が読み取れない。
眼を細めて菊を見ると彼は微笑んで湯呑みをデスクに置いた。
耀は扉を半分開けたまま佇んでしまっていた。
眉間に皺を寄せ、眼を伏せて下唇を噛み締めている事から菊に逢うのを躊躇っていることが読み取れた。
仕方がないだろう。
初の任務失敗の上、“アッシュローズ”の口付け。
菊に後ろめたい気持ちが山程ある。
それを分かっている菊は優しく微笑み、耀さん、と彼の名を呼ぶ。
呼ばれた彼は顔を上げ、菊に手招きされるまま部屋に入り、後ろ手で扉を閉める。
そしてそっと歩き出すと菊は椅子から立ち上がり耀の元へと歩み寄った。
我慢出来なかったのか耀が小走りになり菊に抱きつく。
それを受け止めると静かに耀はすすり泣きをした。

「落ち着いたら、話してくれますか?」

優しく頭を撫でて彼の背中を二、三回叩くとその問いに菊の肩に埋めていた顔をこくこくと二回縦に振ったのだ。

「口付け?」
「相手に拳銃を突き付けてから…不覚にも接吻されたある。」
「それは耀さんが女装していたのですから、仕方がないでしょう?」
「違う…彼奴は、“アッシュローズ”は我が男だと気付いたある。」

向かい側に座る菊の顔を見ずに手元に視線を置きながら一気に喋ると耀は項垂れた。
それだけ聞くと眉間に皺を寄せて溜め息を吐いた。
耀が再び泣きそうになったので菊は立ち上がり耀が座るソファの隣に腰掛け、背中を摩った。
まさか性別までバレてしまうとは思わなかったのだ。
先入観だけでは耀は完璧な女。
今まで男と気付かれた人物など居なかった。
そこまでの凄腕か、“アッシュローズ”。

「“灰薔薇”と言われるだけある…。」
「…この失態は、我が必ず」
「いえ、まず心配なのは耀さんが男だと周りの組織に気付かれない事。“アッシュローズ”が言いふらすなんて真似しないのは解ってますが…。今もう一度“アッシュローズ”の元へ向かうのは余りにも無防備です。顔も性別も認識されては近付き難い。」
「…では、他の任務を。簡単な裏社会の薬取り締まりでも雑魚相手でも何でもいいある!何か、仕事が欲しいある。」

そういえば今香が臓器売買の取り調べとグループの抹殺を行っていた様な気がする。
亜細亜を拠点に活動する菊がトップのこのマフィア組織はマフィアというより何でも屋と言った方が的確で、金さえ渡せば殺しも盗みも助けもする。
今回の“アッシュローズ”抹殺任務もある人物から金を貰って頼まれたのだ。
しかし失敗した限り金は返済しなければならない。

「そうですね…香さんが今依頼で臓器売買の取り調べしています。どうやらその組織に恋人のが取られてしまったらしく、怨みがあるとか。組織自体を滅ぼして欲しいと言われたので今メンバーを割り当てて全員暗殺しています。そろそろ終わりそうだと言っていましたが、一人だと不安だったので耀さん手伝ってあげてください。」
「香が?そんな話聞いてなかったあるよ?」
「私が直接任務に回しましたから。」
「だから最近あいつ見ないあるか…。」

香は耀の所属部下だった。
耀が仕切る任務だったり大勢で実行しなければならない任務で付いていく部下である。
つまり幹部の手下、みたいな者だ。
香は耀と特に一緒に行動した部下であったため見かけなくなったのに多少心配もしたのだった。
まさか単独で行動していたとは。
香は拳銃の腕は確かで遠方射撃から玩具のスタンガンまで銃と聞けばピカイチの人物だから任務に心配は無いのだが。
ちゅ、と音を立てて菊に口付けすると耀は立ち上がり失礼しましたと部屋を出た。
背後で扉が閉まる音を聞き届けて深くソファに身体を沈めた。
さて、どうやって“アッシュローズ”を伐とうか。
向こうも黙っては居ないだろう。

「随分ご機嫌だねぇ、アーサー?仮面舞踏会で何かあった?」
「ん?あぁ、そんなもんかな。」

普段刺繍をしている彼と対して変わり無い笑顔だったがフランシスはどうにもその笑顔が何時も以上のものに見えた。
頬杖を付いて新聞を読む体制を変える。

普段は外出を嫌う“アッシュローズ”ことアーサーは先日行われた仮面舞踏会にだけは進んで参加した。
どういう事だと不思議だったがアーサーと共に舞踏会に参加していた部下、所謂アーサーのボディーガードによると一人の美人亜細亜女性がアーサーに寄り、それに答えてホテルにまで女性を連れ込んだとか。
まさかあのアーサーが女に手を出すとは思わなかったのである。

幼い頃からアーサーの顔馴染みの腐れ縁だったフランシスもまた、マフィアとして育てられた一人だった。
アーサーとフランシスの両親は共に同じ組織のメンバーで仲が良かったのがきっかけでしかも住宅が隣接していたため教育の殆どが同じであった。
更に二人には生まれながらの才能が発揮され若くしてマフィアの幹部に登り世代が変わり今、アーサーで二十代目だ。
アーサーだけが頭になるのは不満だとフランシスは文句を付けるかと思えばそうでもなかった。
アーサーがへまをするとそれをカバーするのも悪く無かったし彼の元で働くのも悪く無い。
寧ろ楽しい毎日だと思う。
そんなアーサーは毎日仕事三昧でフランシスが酒と女で遊ぼうと誘っても俺には煙草が有るからと断られるはめになるのだった。

だからアーサーにはてっきり女には興味ないのかと思っていたがやはり男は男か。
亜細亜女性が好みだなんてこの長い付き合いでも初耳だが、フランシスも亜細亜女性は嫌いでは無かった。
美しければなんでも良いのがモットーだが。

「今度俺にも逢わせてよ、“緋舞”ちゃん。」
「なんだバレてたのか?」
「いや。アーサーが只の女に引かれる訳無いと思ってね。可能性的に“緋舞”ちゃんが最近話題だし美人で有名だからね。で、“緋舞”ちゃんは女?男?」

性別不明でも有名な人間だからフランシスは聞かずにはいられなかった。
まさかホテルにまで連れ込んで収穫無しでは無いだろう。
アーサーは頭として当たり前の能力はあったから見分けはつくだろう。
歩き方とか言葉使い、姿勢から骨格を見て分析すれば大体予想はつく。
アーサーは趣味の刺繍の手を止めて顔を上げた。
いきなりの静けさにフランシスも新聞から目を離した。

「何?」
「楽しかったなぁ…あのスリリングはまた味わえないのかな?」
「だったら銃撃戦にでも参加してくれば?」
「そんなのスリルじゃねぇよ。」

再び刺繍に集中し出したアーサーに溜め息を吐き、フランシスも新聞の文字列を追い始めた。



(続)
作品名:漆黒と純白・3 作家名:菊 光耀