二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

漆黒と純白・7

INDEX|1ページ/1ページ|

 
人間には三大欲というものがある。
食欲、睡眠欲、そして性欲。

それなのに、こいつはそれら全てをしなくても三日は凌げる体力を身に付けていた。




「…うぁっ!…くっ…」

薄暗い部屋の中央だけに随分と明るいライトの光が集まっていた。
光の元には耀が上半身裸の状態でうつ伏せになっている。
そして彼の背中にメスやピンセットを入れているのはマスクと帽子、それから手術用のエプロンと手袋をした彼を捕まえた張本人のアーサーだった。
血まみれになった手で耀の背中にめり込んでいる弾丸を取り出す為に応急措置をしているのだ。(アーサー自身が耀に当てたのだが)
耀は暴れられない様に手足はベッドに拘束されているが、それよりも激痛が身体を刺激し抵抗できる力も思考も皆無だ。

「わりぃな。丁度麻酔を切らしてて…」
「…っあ!…くっぅっ…」

軽く他人事の様に話すアーサーの言葉は聴こえていないか口元にある布を噛み締めて耀はどうにか意識を飛ばさない様に堪えている。
汗が吹き出し、流石に涙も止まらない。
ぎりりと奥歯を噛み締める音が鳴る。
漸くアーサーが深く撃ち込まれた弾丸を体外へ取り出し、トレイにそれが置かれた。
血塗れのそれにアーサーは一息吐いて汗を拭った。
後は針で縫うだけだ。

「はっ…はぁ…」

ちくりと医療用針を通すと再び傷口に激痛が走り、眼を固く瞑って布を噛んだ。


アーサーは医学も多少咬んでいると言う。
最初この組織の随分豪華な隠れ家に連れてこられた時は地下に放置される事を覚悟していた。
自分で弾はどうにか処理しようとおもっていたところだったが何やら地下へ連れていかれる気配は無い。
そのまま屋敷の奥の客間の様な部屋へと連行され、いきなりベッドにうつ伏せで拘束され耀の有無を問わずに着替えたアーサーが道具を用意しながら弾を取り出すと言い出したのだ。
傷痕も目立たない様にしてくれると言うので有難いと言えばそうだが、いつでも相手は耀を殺せるのだ。
傷を負った今の耀では到底アーサーには叶わないであろう。
それにアーサーに捕まった瞬間から死は覚悟していた。
しかしアーサーは先程から俺はお前を殺す気など無いと言い張っている。
そんな言葉は信じるに値しないが。



「…終わったぞ。取り敢えず、内臓や神経には傷は付いていない。傷口が塞がれば今まで通りだ。ま、そういう風に撃ったから当たり前なんだが。」

盛大な溜め息と共にどかりと近くのソファーに腰を下ろした。
ようやく終わったと汗だくの耀は虚ろな眼で息を整えている。
激痛に堪えた精神力は半端ないだろう。
普通の人間なら気絶はする筈だ。
並大抵の訓練を受けてないな、こいつ。

「…流石だな。」
「はぁ…………あ?」
「マフィアの幹部。すげぇっつってんの。」

ぐったりと身体を横たえている耀だったがしっかりと出口を探している。
しかし今の耀が楽に脱走出来るルートはどこにも無かった。
それを承知で、アーサーは耀の腕と足の戒めを解いた。

******

それから耀の生活の場はその部屋になった。

左足首に壁と鎖で繋がれた足枷を食められているので脱走は不可。
通信機も取られ外部との通信も不可。
武器や鋭い刃物等も一切取り上げられてしまったので命を断つ事や足を切断して逃げる事も不可。
窓は高い位置にあるため鎖の長さが届かないので脱出も不可。
水は飲み水しか与えてくれないので窒息死も不可。
家具はベッドとソファーのみ。
シーツで自らの首を締めようとすれば監視カメラで一瞬にして解ってしまう。
見つかるとその日は手足の自由を奪われてしまうので耀はやる気を無くした。
しかし夜は眠らなかった。
何をされるか解らないからだ。
逆にこんな敵の隠れ家でのうのうと眠れる奴の気が知れない。
また出された食事にも手は付けなかった。
毒入りだったり妙な薬が入っていたりする可能性があるからだ。
アーサーはそんなこと無いと毎回言い張るが、その可能性が欠片でもあれば手は付けられない。いや、付けたくもない。
しかし流石の耀もその我慢は四日目で既に限界を越えていた。
痩せた身体、顔は隅が酷く見るも耐え難い姿になっている。
このままでは栄養失調か睡眠不足で死んでしまう。
力が出ないのか只ぐったりとベッドに横たわり重たい目蓋を閉じない様に懸命に自分と格闘している。
困り果てたアーサーは点滴を打とうとしたが激しく耀は拒んだ。
やはり毒や薬の疑いがあるからだろう。
それはそうだ。
もし自分も敵に捕まり食事等が出されても手を出す気にはならない。
しかしこのままでは折角手に入れた耀を死なせてしまう。
アーサーはフランシスに栄養満点のスープを作らせて耀の元に運んだ。

「………食わねぇあるよ………。」

喋るのも精一杯の様子の耀はアーサーを睨んだがそれを軽くかわすと小さな木製テーブルにスープが乗ったトレイを置いた。

「そのままだとくたばるぞ?」
「それが……本望…ある。」
「抵抗できる力もねぇじゃねぇか。」
「……っるせぇある。」

耀の余りにも迫力が無い答えに肩をくすめるとそのままスープが入った皿に口をつけた。
そしてそれを口に含んだまま耀の顎を指で救うと口付けをしてスープを流し込んだ。

「―――!!」

手でアーサーの胸を押すが、全く力が入っていない。
後頭部を掴み、飲み込むまで離さないのを見て暫く我慢比べが始まったが耀はアーサーとのパーティーの夜を思い出してしまった。

「―っ」

途端に顔に熱が集まり何故かそのスープを飲む気になってしまっい、こくりとスープを飲み込んだ。
我慢比べはアーサーの勝ち。
耀の表情を見てアーサーは舌をさし込んだ。
弱々しい彼の舌と絡ませると暫くスープの味が残るそこを暴れ回った。
唇を離すと真っ赤になって力が抜けた耀がアーサーを見詰めている。

再びスープを口に含むと、優しく耀の唇にそれを合わせ、生温かいスープを移した。



(続)
作品名:漆黒と純白・7 作家名:菊 光耀