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そもそもビット・クラウドとライガーゼロというのは、もはや切っても切り離せない関係にある。ビットはいついかなる時も、何かにつけてはライガー、ライガーと愛機を呼び、そのライガー自身はというと、やはり毎回毎回、それに嬉しそうに答えている(らしい)。この二人の結びつきは、半端なものではないのだ。彼らのやりとりは、格納庫に行けば必ずと言っていいほど頻繁に行われている。
そう、たった今、この時も。

「明日もバトルだってさ。頑張ろうな、ライガー!」

応える、獣の咆哮。
愛機の調整をしていた手を止めて、バラッドは白い機体にその目を向けた。足元でそれに呼びかける少年の顔は輝きと自信に満ち満ちていて、さらに見上げる翡翠の瞳は優しさと穏やかさを湛え、さながら恋人に向けるそれのようだ。―――と。
そこまで考えてバラッドは眉をしかめた。我ながらいったい何を考えているんだ。心の中で己を叱咤しつつ、しかし彼はどうにもよく分からない靄のようなものが、自分の中に立ち込めるのを感じた。

愛機が何よりも大切だという気持ちは、バラッドにもよく分かる。自分だって、フォックスを手に入れるためなら仲間と敵対することも厭わなかった。
俺には、コイツだけだ。コイツには、俺だけだ。そんな確信が、ある。そしてそれは間違いなくビットの中にもあるだろう。断言できる。『愛機』というものが占める絶対的な領域。そこに他の何かが侵入することは、不可能だ。もともと、同じ天秤にかけるものではない。かけようとするのが間違っているのだから。そんなこと、分かっている。

分かっているはずなのに、何だ。
何なんだ、この苛立ち、この焦燥。まるで言う事をきかない。

バラッドは舌打ちした。まったく、どうしてくれるんだ。
「悪いな、フォックス」
今はとても、集中して調整など出来る状態ではない。

ビットの方は、もう自室へ引き揚げるようだった。バラッドは残されたライガーゼロを見つめ、刹那シャドーフォックスのコクピットから飛び降りた。
そしてこちらの気持ちなど欠片も知らない少年の背を追いかけ、その腕を乱暴に掴むと、扉の向こうへ白い機体が消えたのと同時、唇を重ねたのだった。
作品名: 作家名:ひょっこ