ハロウィーンSS(現代パロ)
しかしそんなことも知らない一は、夕飯を作りながら総司の帰りを待っていた。
ピンポーン。
玄関のチャイムが鳴った。
総司なら、鍵を持っているので入って来るはずだ。
しかし、ドアは開かない。
もう一度、チャイムが鳴った。
(今時分、誰が訪ねて来るというのだ?)
一は、訝しがりながらもドアを開けた。
すると、覆面をした長身の男が立っていた。
すぐに危険を察知した一は、ドアを閉めようとした。
ところが、男は力任せに押し入ってきた。
「おい、あんた、一体何の用だ。うちには・・・」
「ごちそうくれなきゃ、イタズラするぞ」
甲高い、妙な声だ。ヘリウムで声を変えているのか。
男はジリジリと詰め寄って来る。これはますます危険だ。
一は後ずさった。ひとまず台所までいけば、撃退できる武器が手に入るはずだ。
・・・ん?
しかし、今男は『ごちそう』と云った。
「し、しばし待ってくれ!」
数分後、男の目には一の作った夕食が映っていた。
「腹が減ってこんな事をしでかしたのなら、今回は大目に見てやる。好きなだけ食って帰れ」
男の肩が小さく震えだした。やがてそれは次第に大きくなり、
「あっはっはっは、もうダメだ〜!」
覆面を脱ぎ捨てた男は、総司だった。
「なっ・・・、総司、一体何だったのだ! 何故こんな真似を・・・。冗談にしては質が悪すぎる」
「知らないの、一くん。今日はハロウィーンだよ?」
「ハロウィーン? 何なのだ、それは」
「こういう風にお化けの仮装をして、ごちそうをもらいに行く日なんだよ?」
「しかし・・・」
一は溜息をついた。
「本当に強盗が入って来たのかと思ったぞ。あれは心臓に悪すぎる」
「ごめんねー。あんなに怖がるとは思ってなかったんだよ」
総司は鞄から包みを取り出した。
「はい、一くんの分」
それは、ウサギの耳のついたカチューシャだった。
「こ、これを俺がするというのか?! いや、断る」
「えー、そんなこと云わないでよ」
総司はしょげた顔をする。
一の胸がちくりと痛んだ。
「ええい、今日だけだぞ!」
途端に総司の瞳はキラッと輝いた。
「わーい、ありがと一くん。
それじゃ、ごちそうはいただいたからイタズラ、してもいい?」
「なに、それでは話が違う」
「いいんだよ、何でも。さっきの青ざめてた一くん、可愛かったよ。
どんなイタズラしてほしい?」
「俺の分のごちそうはないのか!」
「えー、そんなことはないよ」
総司はそこでにやりと笑った。
「僕のイタズラは、君のごちそう、でしょ?」
*
それから一は事ある毎に、総司にうさ耳をつけられたと言う・・・。 (了)
作品名:ハロウィーンSS(現代パロ) 作家名:井戸ノくらぽー