MISSION IMPOSSIBLE
目を閉じたままこちらを窺うシャカは、心なしか落ち着かなかった。
立ったり座ったり、足を組み換えたり(太腿が丸見えじゃないか!)。
首を振っては溜め息を吐く様子を見る限り、言いづらいことでもあるのだろうか。
俺の留守中、何かあったのではあるまいな。
そう思った時。
「……アイオリア……」
いきなりシャカの体が肩にしなだれかかってきた。
胸元に頬を寄せると、あいつにあるまじき弱々しい声が何やら訴える。
「……早くベッドへ……」
思わず俺は、腕の中にシャカの体を抱き込んだ。
慌てて互いの額をくっつける。
「どうした、具合でも悪いのか?」
パチリとシャカの青い目が開き、その中に真剣な顔をした俺の姿が映っている。
「今日のお前、何か変だと思っていたんだ。調子が悪いのだったら無理をするな」
「…………」
可哀想に。余程辛かったのか、シャカの顔は引きつっている。
「横になるか? それとも水を持って来ようか?」
バスローブ越しに伝わってくるのは、いつもと同じ、あまり高くないシャカの体温。
だがこれから熱が上がるとしたら、どう対処すればいいだろう。
愛しさと不安で一杯になった時、シャカがふてくされたように言い出した。
「具合が悪い訳ではない。一応誘っているつもりだったのだが、判らぬか」
天地が引っくり返るとはまさにこのことだ。
シャカが俺を誘う日がくるとは……!
ほんの少し顔を赤らめたシャカの様子があんまり可愛らしくて、思わず笑い出した。
「何だ。だからそんな格好をしていたのか。どういう風の吹き回しかと思ったぞ」
「何だとは何だ。私がせっかく……」
「───それで」
わざと低めた声を耳元に吹き込むと、腕の中のシャカの体がぴくりと震えた。
「お前の誕生日くらい静かに過ごそうと思っていたのに、自分から誘ってくるほど淋しかったのか」
「そのようなことは───」
「答えろシャカ。どんな風に淋しかったのか言ってくれ」
紳士的、なんて計画はもはや頭から吹き飛んでいた。
据え膳を喰わぬ輩など、もはや男として認めん。
このアイオリア、お前の気持ちは決して無駄にはしないぞ。
シャカはあまりにも密着した体勢を変えようともがき出したが、逆にソファに押さえ込んでやった。
「……やめたまえ……っ」
「言うまでこのままだ」
結局、またいつものパターンになだれ込みである。
やはりこれが一番しっくりくるような気がするが、シャカは口惜しげに俺を見上げた。
潤んだ瞳で睨まれても、効果はないぞ。
「いつの日か思い切り大胆に誘ってやるから、覚悟したまえ……!」
「判ってないな───お前は素が一番色っぽいんだよ」
「獅子座改造計画」は、こうして続行不可能のまま終了となった。
FIN
MISSION IMPOSSIBLE/実行不可能
2012/9/19 up
作品名:MISSION IMPOSSIBLE 作家名:saho