やさしすぎる男
「またか」
ジャックは、それだけを言った。
「ああ、まただ」
クロウは笑った。その頬には新たな線が刻まれていた。また、セキュリティに捕まったのだ。
「脱獄もいい加減にしておかないと、顔が黄色に塗りつぶされるぞ」
「それ、遊星にも言われたぜ。なんで脱獄って決めつけんだよ」
「違うのか」
「……ガキどもを放っといて、大人しく服役なんか出来るかよ」
「…………」
逮捕経験が無いジャックも、多少なら聞いたことがある。マーカーを刻印されることの苦痛や、囚人に対する手荒な扱いについて。助けを呼ばれたならば、傍にいて窮地を察知できたならば、彼を救う為に出来ることもあっただろう。遊星も助力を惜しまなかったはずだ。だが、もうお互いのデュエルディスクに発信機はついていないのだ。
四人で行動を共にしなくなって、久しい。
同じ服を身に纏うこともない。あの頃使っていた断崖のアジトも、今では人が住めなくなっているかもしれない。遊星は新たな仲間と新たな生活を始めた。ジャックも、一人でいる時間は増えたものの、概ね、遊星に伴ったと言える。しかしクロウはBADに残った。自分で、自分の守るべきものを見つけた。生き甲斐を。それから顔を合わせる機会は減ったが、それでも偶に、こうして会いに来る。絆は決して失われていないのだと、示すように。確かめるように。それに安堵していなかったなどと、どうして言えるだろう。
「ジャックにマーカーは似合わないだろうなー」
呑気に呟かれる言葉は、ジャックの鼓膜にざらりとした感触を残した。笑い方はあの頃から変わらない、が、どうしても微かな違和感がある。前会った時と違う、と、目が認識してしまう。新しく増えた線の所為で。そのことに苛立ちすら覚えて、「おまえにも似合わん」 ジャックは低い声で呟いた。おまえはやさしすぎる、と、言う代わりに。