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はじまり

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何でこんなことになってんだ? そう思いながら俺は胸ポケットに入れていたタバコの箱を取り出した。







トントンってタバコの箱を鳴らすが、上手く出てこないあたり、俺は動揺してるんだろう。
……何故か横で竜ヶ峰が俺に凭れて寝てるからだ。
ちらっと竜ヶ峰を見れば、竜ヶ峰はいつもより幼い顔で寝息を立ててる。
やっぱり高校生には見えねぇな。
やっと取り出したタバコを口にくわえて……捨てた。
竜ヶ峰の前でタバコを吸うのはなんでか気が引けた。
はぁ、と吐いた溜息と一緒に竜ヶ峰の寝息が混じって更に溜息を出しそうになる。
……トムさん、早く帰ってきてくれ。





今日の仕事は簡単だった。
取り立てはいつもより少なくてやけにスムーズで、今は最後の一件をトムさんが取り立てに行ってるのを待ってるところ。
こいつならお前はこなくて大丈夫だ、とトムさんが言うから俺は狭い路地でトムさんを待っていた。
そんなときにコイツ、竜ヶ峰がいきなり現れた。
騒がしい街中じゃない汚い家しかない暗い狭い道。人なんてなかなか会わない、そんな場所に竜ヶ峰が。
え、と思って竜ヶ峰を見れば、竜ヶ峰は涙目で俺の名前を読んで駆け寄ってきた。
聞けば道に迷ったらしい。
引っ越してきたばかりだと聞いてたが……何処をどう行ったらここに辿り着くんだ。
半ば呆れながら聞いてたが、竜ヶ峰が俺を見て

「静雄さんがいてよかった!」

なんて笑顔で言ってくるからおもわず口にしてたタバコを落としてしまって、慌てて靴で火を揉み消す。

「ちょっとトムさんが帰ってくるまで待ってろ」
「え?」
「人がいるところまでつれてってやるから」
「あ、ありがとうございます! やっぱり静雄さんは優しいですね!」

は?
今、なんつった。
俺が優しい?
言われたことなんてほとんどないその言葉の意味が分からなくて竜ヶ峰を見れば、竜ヶ峰はえへへ、と笑ってしゃがんでいいですか? と一つ欠伸してしゃがんだ。
今見えるのは竜ヶ峰の後頭部。
……なんか、調子狂う。
頭をガシガシ掻いてタバコの箱を取ろうとしたとき、足になにかが当たった。
何かっつか……竜ヶ峰の頭。竜ヶ峰は何も言わない。
は? と思って足に凭れたままの竜ヶ峰の頭をそっと足から離してしゃがむ。顔を覗き込んだら有り得ねぇことに寝てた。
いやいや、さっきまで話してただろ? 寝るの早すぎ、と驚いて思わず手を離す。
そしたら今度は腕に凭れた。
さすがに起こそうとしたけどさっきの寝顔が頭をよぎる。
幸せそうに寝る竜ヶ峰の顔が。
なんだか起こすのも気が引けて俺は座り込む。
それが今の状態だった。






「なんだこれ」

呆れた声が頭から降ってくる。顔を上げればトムさんが立っていた。
やっと帰ってきた。また思いきり溜息吐いてトムさんにあったことを話せば、笑って送ってやれよ、って言われた。
は?

「こんなに爆睡してる子を起こすのも可哀想だろ?」
「や、それはそうっスけど……」
「取り立ても終わったし、俺は事務所に戻るからじゃあな」
「あ、お疲れさまです」

……どうしろってんだよ。
頼みの綱だったトムさんはさっさと帰っちまうし、ああもうっ!
俺は竜ヶ峰の方を向いて抱き上げる。
……軽っ、薄いとは思ってたけど、ちゃんと食ってんのかコイツ。
抱き上げても寝たままの竜ヶ峰を見て思わず笑ってしまう。
壊さないように集中して俺は歩き出した。

「……あ。やべ、家なんて知らねぇぞ」

作品名:はじまり 作家名:秋海