風香の手帖
風香はしばらく黙っている。
やはり小岩井にも話しづらい。
「どうしたの。黙っちゃって」
風香はやっと話し始めた。
「小岩井さん。私考えたんですけど、昨日あのまま最後まで行ってたら、どうなったのかなって」
「え?」
「……私の初めては小岩井さんって決めています…… でもこのあいだ付き合い始めたばかりなのに、早すぎないかなと思って。小岩井さんはどう思います?」
小岩井は風香を抱き寄せた。
「風香ちゃん、君はとても素直だね。実は俺も昨日そのことについて考えてた」
「本当?」
「ああ、大人としての俺は、君が卒業するまで潔白でいたいと思っている。だけど男としての俺は、君を見ているとよからぬ気分になってしまうんだ」
「私、小岩井さんが望むなら……」
「でも、今最後まで行ってしまったら、この先ずっとそれだけになってしまうんじゃないかって心配して、俺に話したんじゃないの?」
「……うん」
「実際問題、さすがに俺も君の卒業まで自分を抑える自信がない。いや、もちろん努力はするけれど、デートのときとかお互い気持ちが盛り上がってしまったときは、流れに身を任せる方が自然なんじゃないかな」
「そう……ですね」
「俺も普段はなるべく自重するよ。時々風香ちゃんにちょっといたずらするかもしれないけれど、それは風香ちゃんが魅力的すぎるからだと思って」
風香は小岩井の背中に抱きつく。
「小岩井さんに話してよかった」
しかし、先日、昨日と中途半端なところで終わったこともあり、背中に当たる風香の胸の感触で小岩井の頭は沸点に達してしまった。
あぐらをかいた膝に風香を座らせ、Tシャツの下のタンクトップの裾から手を入れる。
「なっ! 小岩井さん、いきなり! さっきの話は何だったんですか!」
「ごめん。おぢさん、急にテンパっちゃった」
「そんなあ」
小岩井は風香の胸に手を当てる。
「風香ちゃん、ノーブラだね」
「だって楽なんだもん」
「えっちなおぢさんのところにそんな格好で来たら、食べてくださいと言ってるようなもんだよ」
小岩井はそのまま触り続ける。
「ちょっ、小岩井さん、やめっ」
小岩井は幸せそうであった。
風香の大きな胸を堪能した小岩井は、やっと自制心が戻ってきた。
「あー、気持ちいい触り心地だった」
「小岩井さんには本当にあきれました。しばらくここに来るのやめようかな」
「こめんごめん。まあそう言わないで」
「小岩井さんがここまでえっちな人だとは思いませんでした」
「だってよつばがいないときじゃないと、風香ちゃんにいたずらできないし」
「いたずらするなー!」
小岩井は風香になんとか機嫌を直してもらった。
「風香ちゃん、次のデートどこ行こうか」
「定番ですけど遊園地とか水族館とか?」
「あっ、そういえば」
小岩井は二階に行き戻ってきた。
「これこれ。前新聞取ったときもらったのを忘れてた」
小岩井の手には水族館のチケットが三枚ある。
「ここでどうかな」
「私は小岩井さんと一緒ならどこでも大丈夫ですけど、チケットが三枚あるんで、よつばちゃんと一緒に行きませんか?」
「ええ? あいつと行くといろいろ振り回されて、デートどころじゃないよ? しかも途中で寝ちゃったら食事もできないし」
「でも小岩井さんと出かけていると、置いてきたよつばちゃんのことが気になっちゃうんです。それにいつも面倒を見てくれるジャンボさんにも悪いし」
「確かにそれは俺も思ってたけど…… じゃあ三人で行こうか!」
「はい!」
「ただいまー」
風香が自宅に帰ってくると、よつばと遊んでいた恵那が飛んできた。
「風香お姉ちゃん! よつばちゃんのお父さんと結婚するの!?」
「え゛!?」
恵那のいきなり核心を突く質問に、風香は玄関で立ちつくすのであった。