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志貴とか椎茸とか
志貴とか椎茸とか
novelistID. 4361
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拝啓、ウァレンティヌス伯爵

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今年は暖冬だというが体感温度的には例年通り、もしくは例年以上の寒さじゃないかとゼロスは考える。いつもは左側にまとめて大きな三つ編みを結わえているサーモンピンクの緩いウェーブがかかった髪も、今日は何も手が加えられることがなく、ただこの寒空の中とげとげとした風に晒されていた。
街を歩けば、シーズン柄バレンタインデーの特集がそこかしこに組まれており、それに群がるあまたの女性を見遣り小さな溜息を吐く。つい2、3年前までは貰う側に徹していたというのに、世間で所謂恋人というものに昇格してからはいつの間にかあげる側にシフトチェンジしていたというのも実に懐かしいだけの話である。ロイドが高校を卒業してから3年、ゼロスは毎年このシーズンにだけ手づくりのチョコレートケーキを作るようにしていた。

(去年は、………ガトーショコラ)

シンプルなそれの上に粉砂糖をふるいでふった覚えがある。単純なガトーショコラだからこそ、去年はたしか使用するチョコレートにこだわったのだ。
それでは今年はどうしよう、とゼロスは歩みを止めた。約半年ぶりにとった有給休暇。ロイドは就職活動に追われ、朝から大学へと行った(近年は稀に見る不景気で3回生のうちから就職活動に励んでいるようだが、就職先に困ることがなかったゼロスからしてみればご苦労極まりないことこの上ない)。

(今年は…チーズでも使うか?ゴルゴンゾーラショコラとか)

ブルーチーズであるゴルゴンゾーラチーズを用いたゴルゴンゾーラショコラは、チョコレートチーズケーキの一種で。口に入れたときにバランスよく広がるチーズの香りとほろ苦いチョコレートの相性がとてもよく、ゼロスも気に入りの一風変わったチーズケーキだった。
作るものが決まればあとは早く、近くのスーパーに足を寄せ、必要な材料を少し多めにカゴに入れていく。一緒にアングレーズソースも作ろうと牛乳とバニラビーンズをカゴへと放る。頭の中にだいたいのレシピは浮かぶものの詳細なことは曖昧にしか思い出すことができず、ゼロスはレジへ並んでいる最中、ゴルゴンゾーラショコラのレシピの載った本はどこへしまい込んだか必死に思いだしていた。



ケーキというものは、作る時間はかかれど食べるとなれば一瞬だ。
午前中に掃除洗濯を終わらせていたゼロスの午後をまるごと奪い取った6号のゴルゴンゾーラショコラは、2人で食べるには少し大きいかと一抹の不安を覚えたゼロスの不安を掻き消すかのように目の前のロイドの胃に消えていった。帰宅後すぐに風呂に入り、夕食を終え、さらにケーキとよくもまあ休憩も入れずにそれだけのことができるものだとゼロスはほとほと感心する。帰宅当初の堅苦しいリクルートスーツを脱ぎ捨てたロイドは、上下グレーのスウェットに身を包んでいた。
ゼロスはグラスに赤ワインを注ぎ、ロイドには缶ビールを渡す。
成人以来、酒が解禁されたロイドと飲むことを密かに楽しみにしていたゼロスだが飲ませてみれば全くもってお互いに酒の趣味が違うときた。はじめは何とか洋酒も飲めるように努力させたゼロスだが結局はそれも徒労に終わり、ロイドが口にするアルコールといえばビールをはじめ、日本酒や焼酎。ゼロスからしてみればジジ臭い以外なにものでもないのだがロイドはそれがいいらしい。ワインやウィスキー等を好む自分とは次元が違うな、とたまに思う。

「なぁ、美味かったか?」
「ケーキのことか?すっげぇうまかった!」

一口めを口にしたときも聞いたその言葉に、ゼロスは無意識に頬を緩めた。ロイドに、食事やお菓子を作る度に思う。この笑顔と言葉を聞くために作っているようなものだと。嘘偽りのない言葉と、それを証明して見せる笑顔はゼロスにとって掛け替えのないものだ。

「じゃあ俺様すーごい期待してるから、3月14日」

ホワイトデーの日ならば確か大学は春休みに入っているだろう。ロイドの就職もいつ決まるかわからないが、その日一日くらい休んだってかわらないはずだ。

「おう!」

力強く頷いたロイドに、明日あたりぐらいから自分に隠れてこそこそとコレットやリフィル、しいな辺りにいろいろと聞き込みを開始するだろう事が予想できた(リフィルは食事を作ることは壊滅的だが存外様々ないい店を知っている。ゼロスもそれに頼ったことがあり、片手では足りないほどだ)。

「ゼロス、」
「んー?」

ワイングラスを傾け、少量を口に含み嚥下する。一缶あけ少し回ったのか、頬がほんのりと紅潮したロイドが口を開く。

「いつもありがとな!」

ああ、と何に対してのその言葉かはわからないが返事をするとすい、と手に持った缶ビールを掲げた。知らない間に、随分と乙なことができるようになったものだ。ゼロスはグラスに半分ほど残っている赤ワインを掲げる。
頬杖をついてそれを見つめると、赤ワインがちゃぷんと揺れた。

「Happy Valentine」

カツン、ともカシャンともわからない音でぶつかり合ったグラスとアルミ缶を、今までにないくらい愛しく感じた。