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羽衣のはなし

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「そ奴は女を留め置きたいが為に羽衣を奪ったのか」
「ああ。そして隠した」
 楽しげに語る長曾我部とは反対に毛利はうんざりした様子で、それでは策とし
て成っておらぬ、と陣中での口ぶりそのままに返す。
「羽衣が無ければ女は天へ帰れぬ。ならば燃やしてしまえばよい」
 彼が手にするは輪刀、ではなく、盃。
 毛利と長曾我部は、一時(いっとき)は瀬戸海を挟み鎬を削る間柄であったもの
の、今は小康を保っている。きっかけは両者ともとうに忘れてしまったが、こう
して酒を酌み交わす事も有る程だ。
「しかし燃やすなんてとんでもねェだろうがよ」
「何故だ」
「何故、って」
 すっきりと晴れた夜空を望む屋敷の縁側。隣に姿勢よく腰掛ける毛利のひとこ
とに長曾我部は目を丸くした。
 同じくして、今まさに長曾我部のあおろうとしていた酒、それはさらと盃より
流れ落ち、彼の着物へ染みる。着物の藤色は、菫色に。
 酒が染み色濃くなった着物の襟元をくつろげる長曾我部。それを横目で見つつ
、毛利もまた盃へ口をつける。我関せず、とその眼が言っている風に思えて、長
曾我部は心中で悪態を吐いた。口に出す事はしない。
「そりゃあおまえ、天女様の着物を燃やそうもんなら何かしらの祟りだとかがだ
な」
「下らぬ」
 ぴしゃりと言い放つや否や立ち上がる。毛利の細足はこの場から去ろうと動い
ていた。
 が、長曾我部はそれを許さない。背を向けた毛利が気付くより前にその襟首を
掴み、床板の上へ組み伏せた。
「話は済んだであろう」
「いいや、まだだ」
「……手短に済ませよ」
 七夕だからと訳の解らない理由で四国へ呼びつけられ、何かと思えば延々とそ
れにまつわる伝説やら御伽話の類いを聞かされ、この上未だ話が有るのか。毛利
の“氷の面”は割れ落ち、不快に歪む。
「あんたの羽衣も奪ってやろうと思ってな」
「奪って何になる」
「鬼の物に」

 毛利は聞くなり鼻先で笑う。そして、羽衣は瀬戸海にでも沈めるか。そう返し
たのち、奪えるものならば、と足す。





 松葉色した羽衣、いずこへ。




作品名:羽衣のはなし 作家名:みしま