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迷子

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明るい茶髪に指を差し込んで、そのまま自分の胸へ抱きこんだ。特に意味はない。ただなんとなくそうしたかっただけ。まだまだ幼さの残る発達途中の体に男特有のかたさは無く、ぐっと力を入れるとくぐもった声が非難の声をあげる。痛い、いざやさん、離して。言われた通りに離してやると、大きめの猫目が見上げてくる。顔立ちはこどもであるのに表情が酷く大人びていて、そのギャップに眩暈がした。
紀田正臣に直接会って最初に思ったことは、「この子は聡い」ということだった。
初対面で向けられた警戒心。人混みの中で浮いてしまうほど精好な顔で笑いかければ、どんな人間でもころりと騙されたというのに。勿論そのあまりの整い様に敵意を抱く人間もいなくはなかったが、彼は警戒心剥き出しで臨也を見ていたのだ。たった一目見ただけで、俺を危険人物と判断したその勘の良さに驚く。それと同時に腹の底からじわじわと湧き上がってきたのは喜びだった。

(嗚呼、これだから人間は面白い!)

正臣は賢いのに、酷く臆病だ。プライドからか周りにそんな素振は決して見せないが、俺は全てを察し、確信していた。何かを背後に隠しても後ろからは丸見え、というわけだ。この立ち位置というのは実に便利なもので、相手が隠せば見えるが自分の表情を見られることはない。迷っている小さな背を押して、ゆるゆると一番高いところまで導いて行く。そこから優しく突き落とすために。
ブルースクエアとの抗争が激化する中、その表情はどんどん大人びていく。ただ正臣を形作る身体だけが時間に取り残されたような、そんな幻想を抱かずにはいられないほどだった。いくら考え方が大人に近くても、例え大人よりも賢い考えを持っていたとしても、身体が未熟であるために実現できないことの方がはるかに多い。本当にかわいそうな子。自分がどうなっているのかは理解しているのに、そこから動けない迷子のよう。精神だけが独り歩きしてしまった正臣は、それを知る時どんな表情をしてくれるのだろう。そして頂点からどん底へと、突き落としたのが誰であるのか知った時、彼は―――。
思わず笑みを作れば、正臣が訝しげに眉を顰める。何でもないよと目線よりも随分と下方にある頭を撫でた。こども扱いされたことが不満なのか、唇を尖らせて拗ねる。こどもであるのに。

「正臣君、君は神様って信じてるかい?」

いずれその時が来て、俺の手で突き落とした彼を救えるのは神のみになるだろう。しかし決して、正臣が救われることなんてないのだ。
神様なんていないのだから。
作品名:迷子 作家名:さとう