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ひとところにはとどまれぬヒトの哀しき性よ

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サガ。所謂、性質であったのだ。
 元より備わっていた性質であるから、仕方のないことだ、そうなのだ、仕方な
い、仕方が、ない。
 毛利は自らに言い聞かせていた。







 それは互いの身、骨の髄までもを貪り尽くす様な情事の後。ようやっと昂りの
おさまった身体を起こして長曾我部は言った。
「日の出の前には発つ」
 日の出。発つ。毛利は未だ甘やかな痺れが残る頭に言ノ葉を受け、その欠片を
反芻してみる。日の出、日輪、発つ、発つ、嗚呼、行くのか、船を、出すのか。
「行くな」
 理解して、すがりついた背は毛利より広い。
 それから、傷だらけだった。
「行くな、行くな。そなたの様に流れ着いたが、此処を気に入り住み着く者もお
る、安心せよ、行かずとも我が」
「そりゃあ有り難ェ、気持ちは受け取っておくぜ」
「ならば!」
「気持ちだけ、だ」
 傷の数は船旅の経験を、深さは荒くれ者の証明を。
 幾日も幾晩も共に過ごすうち、毛利はすっかり忘れてしまっていた。
 長曾我部元親が海賊であるということを。
「確かに此処は居心地がいい。人はみいんな優しくって、食い物の美味いこと美
味いこと! いつだってお天道さんが照っているし風が止むことも無ェ、何より瀬
戸海の蒼が深い、いつか見た南蛮の宝石みてェだ。でもよ」
 安芸に流れ着いたそのとき、長曾我部は一言、毛利に告げたのだ。
「俺ァ海賊だ。ずうっとおんなじ地面踏んでる訳にゃあいかねェのさ」
 以前と一語一句同じに告げれば、毛利の双牟が見開かれ、のちにゆっくりと閉
じていった。そうして毛利も長曾我部に告げる、静かに告げる。
「一処へ留まれぬ者など好かぬ。行け。何処へなりと行け」
 すがりついたまま、告げたのだった。







 安芸より離れたことの無い毛利には、この地で生きることが全てであった。こ
の地で生きること以外を知らずにいた。時折流れ着く者も安芸で過ごすうちにか
つての生きかたを忘れてゆき、誰に知らせることも無かった。
 だがしかし長曾我部元親という男はどうだ。どれだけ安芸で過ごそうともかつ
ての生きかたを忘れはしなかったどころか、日に日にそれへ想いを馳せてさえい
た。
 そうだ。それこそが海賊の性であったのだ。決して一処には留まれず、ふらり
ふらりと海を渡り行くばかりの薄情者。幾ら身体を重ね慕情を伝えども、生まれ
持った性質にはかなわないという訳だ。

 毛利はひたすらに言い聞かせる。
 日輪はとうに昇りきって、敷布の上、ひとりきり。
 彼はただ、敷布に染みついた潮風にも似た汗のにおいへ想いを募らせることし
かできなかった。