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酒は飲んでも飲ませるな

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アッパーヤードの住人は兎にも角にも騒ぎたがる。特に西の連中はことある毎に寄り集まっては宴会で一日を惜しみなく潰す。東の護衛という役職を得て奉仕活動が刑罰から仕事へと変更されただけのような日々が過ぎて幾らか経った頃、服役中は一度も出されたことのない(当然だ)休暇を貰い、投獄だったとはいえ暫し過ごした西は今どうなっているのかと足を運んだところ、あっと言う間に見知った顔が飲み食いする準備を始めた。歓迎されてはいるようだが半分は口実だろう、相変わらずサングラスをかけているカンガルーが主賓である筈のライオンに向かっておまえも手伝えと悪びれもせずに真顔で言ってきた。何で俺が、と反抗的な態度を取ろうとして、しかしオオワシに料理の盛られた皿を渡されてしまうと彼に対する負い目か甘さか、結局は断れずに手伝ってしまう自分がいる。視界の隅でニヤニヤと笑いつつ何もしない、おまえはいつ来たんだとツッコミを入れた方が良いような気もするシロフクロウのことはこの際見ないことにした。
 さて散々客に手伝わせておいて、それでもいざ宴会になれば優先的にライオンへと皿やグラスが回される。就職を祝う声や以前の素行をからかうそれと共に流れてきた酒をどさくさに紛れて飲もうとすれば、おまえは飲むな未成年、とやや大きな声が飛んできた。今日くらい許せと声の主を振り返ろうとして、別の、見逃せないものを見てしまって回りかけた首は途中で止まった。
「お ま え は 何 し て ん だ !?」
 わざわざ音を区切りって言いながら跳ねるように立ち上がり跳ぶように距離を詰め、真雪にも劣らない白さの手首を掴めばその手には目薬があり、それは酒の注がれたグラスへと傾けられていて、
「あらやだ、それを言わせるの?」
掴まれて尚、止めるつもりの微塵もないらしい手は薬をグラスへ滴下しようとしている。
「言わせねえよ、ついでにやらせもしねえよ」
その手から薬瓶を奪い取りゴミ箱へ放り込めばあからさまな舌打ちが聞こえたが、ゴミ箱からシロフクロウへと視線を戻せば、彼女はいつも通りの笑顔だ。
「何か勘違いしてるようだけど、アルコールに目薬を入れても俗に言うような効果は期待出来ないわよ?」
「……効果もないことをおまえがやるか? さっきの、本当に目薬だろうな?」
「どう見ても目薬だったじゃない」
「容器はな」
 一方は笑顔だが睨み合いと言っても相違ない沈黙は長く続かずにシロフクロウは口元を緩めた。
「貴方はオオワシの痴態を見たいと思わないの」
珍しく真面目な表情をしたかと思えばこの台詞である。
「俺がどうしてンなモン見てえと思うんだよ!?」
「私は見たいのよ」
「知るか!!」
そしてまあ分かってはいたが狙いはオオワシか、と彼の様子を窺えばオカピと談笑しながら魚を捌いていた。この場を凌げたら一品作らせようと決め、改めてシロフクロウを睨めつける。宴席で暴力沙汰など無粋極まりないが相手に舌戦で勝てるなどとは万が一にも考えられないので仕方ない、休暇は潰れるが犯罪を未然に防ぐのも仕事の内だ。
「いくら此処が西だからってな、俺も護衛なんだよ」
 いざとなったら骨の一本くらいは覚悟して貰おう。
「……仕方ないわね、今日は諦めるわよ。貴方と戦ったら無傷じゃ済まないし」
そんな内心を察したのか、はあ、と息を吐いてシロフクロウは早々に白旗を挙げる。
 しかし諦めるとは言ったものの今日という限定つきだ、当面は油断出来ないのだが休暇は一日しかない。
「貴方と違って時間はあるもの」
「……暇なだけだろ」
にっこりと再犯予告をするシロフクロウにライオンは頭を押さえた。
 この後、一連のやりとりを見てはいたが聞こえていなかったオオワシがライオンとシロフクロウの仲が良くて自分の入る余地がない、と勘違いしてカンガルーに愚痴を零そうと近づいたところ、既に酔っていたカンガルーの袋へ詰められ、結局ライオンは魚料理を食えずに終わるのだが、この時の彼は目の前の元共犯者をどうにかすることに手一杯で、先のことを考える余裕など欠片もなかった。
作品名:酒は飲んでも飲ませるな 作家名:NiLi