面倒な女
アリスに巻き付いていた腕が離れ、自身の身体の後方に手をついて重心をずらす。ふっと笑った彼は、確かにと言った。
「だが、そんなに未練たらたらな女を見逃すほど迂闊でもないさ。そんな面倒な女はさっさと始末するに限る。」
「私が面倒な女になったら、始末するの?」
もしそうなれば・・な。少し離れたところから、男は顔色一つ変えずに静かにそう言った。アリスは庭で銃弾が自分を掠めたことを思い出す。この男なら本当にそうするのだろう。
「なんだかすっきりしたわ。有難う。」
「これで心置きなく私のものになってくれるんだな?」
「それは別問題よ。でも、ちゃんと考えてみるわ。」
「・・・ 全く、君の話の顔無しより、君の方が余程面倒な女だ。」
全く・・と言いながら笑う男の身体が陽の光に逆光で浮かび上がる。均整のとれた綺麗な上半身だ。初めて見るわけでもないのに、改めて意識すると急に恥ずかしくなり目を逸らせた。そして、目の前の男はそういうところを見逃してくれる優しい男ではないのだ。
「お嬢さん、恥ずかしがっていないで君の仕事をしたらどうだ。」
「~~~~~ 本当にするの?」
当たり前だとアリスの身体に巻き付いていたシーツを引き剥がされた。如何して良いかわからない彼女は、取り敢えずブラッドの首に腕を回し、身体を密着させた。自分より高い体温の腕が巻き付いてくる。そのままいつもとは逆に押し倒してみた。
思いつきで聞いてみる。
「私のことそんなに欲しい?」
「ああ。」
アリスは満足そうにニコリとすると、次の質問を繰り出す。
「貴方が代わりの貴方になった時、私がこんな風にされていたら、今の貴方は新しい貴方に嫉妬するの?」
「・・・ さぁ、な。なんだ、妬いてほしいのか?」
「別に、そういうわけじゃないわ。ただ、聞いてみただけよ。」
アリスの下敷きになっている男は意味深に笑っていた。きっと真意は解かっているはず。
この男に、死後も想ってほしいほど好きなのだ。
・・・ということが。