But I didn't wanna say Adieu
今さらそういうことを言うの?
私は思わず口に出してしまった。傷ついたかと思い、すぐに彼の顔を覗き込む。彼は表情を全く変えずに言った。
何をもって"今さら"と呼べるのか、教えてくれないか。
私は喉元までせりあがった言葉を抑え込んだ。彼のなかの時計を止めてしまったのは私だったのかもしれない。
何で黙る?
彼の冷たい声が私に追い打ちを掛ける。一年前、私に話しかけてくれたその綺麗な声は、二度と私への愛を孕むことなどないのだ。
もう私たちは別々の道を進むしかないのーー
私はそれだけしか言えなかった。彼にしか打ち明けられない言葉は山ほどあったのに、なんて薄情なことを言ってしまったのだろう。
知ってるよ。
彼は呟くように言った。
私は思わず彼を見つめた。
だからもう行けよ。
私は、ついに私たちの終わりだと悟った。せめて最後に、と言って私は彼を抱きしめた。
良いからもう行けよ。
彼が私の腕を離そうとする。でもその手に力はなかった。私は強く抱きしめた。
ごめんなさい。本当にごめんなさい。
そして、私は彼に背を向けた。
作品名:But I didn't wanna say Adieu 作家名:わかめ