隣が特等席~再会~
遮る建物などない。
それは当たり前だ、何故なら護廷において一番隊隊主室以上に高いものなどないからだ。
一番隊隊主室は大きく窓がとられ、ガラスはおろか障子さえもない。
四方あるはずである壁のうち一面に壁はない。
実に風通しがよい。
窓から入る気持ちがいい風に誘われ、その部屋の主である山本元柳斎重國は窓辺によった。
今日は本当に快晴で、尸魂界の果てまで見えるのではないかと思えてしまうくらいであった。
日常の多くの業務に追われてはいるは、現在は大きな案件もなく護廷は問題なくその機能を果たしている。束の間の平穏のなか、山本は一つ息をついた。
しばし外の景色を楽しみ、山本は中断していた仕事を再開する為に執務机にむかうべく踵を返した。
数歩歩いた山本に突然影がさした。
「!?」
後ろは窓で遮るものなどない。影が差したとなれば其処に何かが現れたという事である。
影が差した瞬間、山本はすぐさまその正体を確認するべく振り返った。
瞬間、目に入ったのはたなびく鮮やかな橙色。
思わず山本は目を見開いた。
そこには紬の着物に7分丈の羽織を身に着けた女が山本に背を向け欄干の上に立っていた。
「あー、相変わらずここの見晴らしはいいなぁ」
「?!」
「いい天気だ」
女は嬉しそうに陽光を浴びならいう。
山本はしばしその様子を見ていたが苦々しくその後ろ姿に声をかけた。
「……どこに乗ってる。行儀が悪い」
その声に女は山本を振り返る。
「口うるさいのも相変わらずだな」
「全くどこをほっつき歩いておった、このはねっかえりめっ」
欄干の上から山本を見下ろし、にやりと笑う。
「すっかりじじいになっちまったなぁ、重」
「おぬしは全くかわらんな、一護」
忌々しそうに山本がいう。
それをおかしそうに女―― 一護は笑う。
少しの間、山本も一護も互いを見つめた。静寂が二人の間に漂う。
「久しぶり」
一護、目を細め嬉しそうに笑った。
それは本当にうれしそうで、そんな太陽のような笑顔で言われてしまえば山本も肩の力が抜けてしまう。
機嫌がよさそうにまた窓の方を振り返り護廷を見下ろす。
そんな姿をみて山本の眉間のしわも緩む。
山本は一護の近くに行き共に護廷を見下ろす。
懐かしい。
今ある隣の存在を失ってからどれ位経ったのか。
再びともに隣だつことが有ろうとは思っていなかった。
少し前まで噛み締めていた束の間の平穏もこの隣に立つ一護によって打ち壊されるだろうと予想できた。
その近い未来の騒動を予見しながら、山本は今は残り少ない平穏を噛み締めることにした。