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はろ☆どき
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novelistID. 27279
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Trick or Sweets!

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草木が実り種を付け始め、各地で収穫祭が催される時期のこと。


すっかり日が暮れてからロイがうちへ帰ると、玄関の前にいつもと違う灯りが見えた。
近づくと、カボチャをくり貫いた中に蝋燭の火が灯されているものだとわかった。
よくよく見るとお化けのような顔の形に穴が空いている。
今時の流行りだろうかと考えながら扉を開くと。

うちの中が真っ暗だった。
「――エドワード?」
居ないのか、と言おうとした瞬間、急に明るくなり思わず目を覆う。
習性で片手は火蜥蜴が描かれた手袋を探してポケットに…行く前に。


ぱあーん!


派手な音がし、気づいたら紙吹雪を纏っている自分がいた。
「トリック・オア・トリート!」
目の前にはシーツを頭から被ったエドワードが中身の飛び出たクラッカーを持って立っていた。
「そうか、ハロウィンか…。しかし順序が逆ってものじゃないかね、君」
ということは、玄関先のカボチャはおそらくジャック・オー・ランタンで、シーツはお化けの仮装のつもりだろうか。
「だってあんた菓子なんて持ってないだろ? だから選択肢はいたずらしかないわけで」
にやにやしながらエドワードが言う。

「でもないぞ」
気を取り直して反撃を試みる。
「なんと今流行りのドーナツ屋の、しかも季節限定ものがここにあったりなどするんだがね」
かろうじて床に落としてしまわずに済んだ紙袋を、エドワードの顔の前に持ち上げる。
「問答無用でいたずらされたし、これは必要なさそうだな」
今度はこっちがにやりとして見せた。我ながら人の悪い笑みを浮かべているだろう。
「え、あのすごい行列できるとこのやつ? なんであんたがそんなの持ってんの。あんたそんな甘いの食べないだろ。寄越せ!」
「ホークアイ大尉に持たされたんだがね。そういうことだったんだな。さすがだな…」
彼女は今日昼休憩を潰して一時間も並んで買ってきたらしい。
お裾わけです、と言って渡されたのだが、私が甘いものをさほど好まないことは知っているので、当然エドワードへということだろうとは思っていたのだが、そんな意味があったとは。
日頃、季節の行事ごとなど警備を厳重にしなければならないようなイベントでもない限り、気にしたこともない様子なのを見ているので、当然今日もエドワードに付き合うために菓子を用意して帰るような気の利いたことをするはずもないと思ったのだろう。
現にカボチャのランタンを見てもハロウィンなど思い出さなかったくらいなので。
まったく出来た副官だ。

「なーに一人で納得してるんだよ。オレにくれたんだろ? 寄越せ、寄越せー!」
「しかしなぁ、いたずらされた上に菓子も渡すのでは、私がわりに合わないと思わないかね」
「う…」
エドワードが口ごもる。
「さ、さっき子供達に配ったのの余りの菓子ならあるぞ! もう遅いから訪ねて来ないだろ」
「…私が子供に配るような菓子を喜ぶと思うかね?」
「えーと、あれだ。今日の晩飯はカボチャ入りのクリームシチューだ。あんた好きだろ?」
「どちらかというと君の好みじゃないか」
「ちょ、意地わりぃな!」
えーと、えーと、とエドワードは唸り続けている。
ドーナツ欲しさに本気で悩む姿を見ていると思わず顔が綻んでしまう。
若く見えがちではあるが青年と呼んでいい風貌になっていても、こんなところは昔のままだ。

「あ、そうだ、付け合わせにあんたの好みの…うわっ」
更に言い募ろうとする顔の前でパチッと火花が散り、エドワードが思わずといったように後ずさる。
錬成でごく小さい焔を一瞬だけ飛ばしたのだ。
もちろん、顔に怪我したり前髪を焦がすことのないよう細心の注意を払ったが、仕返しをしないと気が済まない辺り、たいがい自分も大人げない。
「あっぶねぇな! うちの中で焔の錬成は危険だから禁止だって、あんた自分で言ってなかったっけ?」
案の定、エドワードが噛みついてきた。
「なに、高官の自宅用に設置された最新式の高性能火災報知器が作動しないくらいの火なんぞ、対象に含まれんさ」
しれっとした顔で応戦する。
「ずりぃぞ。おーぼーだ!」
「まあまあ。いたずらはこれで等価ということにして、そろそろ食事にしないか。私の好きなカボチャ入りのシチューを作ってくれたんだろう? ドーナツはデザートにしよう。旨いコーヒーを入れてあげるから」
ここらで引くのが妥当だろう。
「おぅ、そうだな。腹減った! シチューが冷めちまうじゃん。温め直さないと…」
「着替えて来るからその間に頼むよ」
「いいぜ。食後のコーヒーはあんたのとっときのやつ入れてくれよな!」
「はいはい、わかったよ」

ようやく玄関から脱出成功だ。
「そういえば、カボチャのランタンは君が作ったのかい?」
自室へ向かいながら声をかける。
「そう! ジャック・オー・ランタンな。子供の頃よく作ってたんだ。リゼンブールじゃ、カボチャが頭に被れるくらいでっかいのがあってな」
「特大のカボチャを被ってふらふら歩く君の姿が目に浮かぶようだ」
「へっ、なんでわかったの」
笑いながらエドワードはキッチンへと向かう。

まだ背負うもののなかった頃の、屈託のない幼い君も見てみたかった。
今は成長したその背中を見送りながら、声には出さずにそんなことを考えていた。
なんでそんなこと思ったのだろうと一瞬だけ頭をよぎったが、着替えている間に忘れてしまっていた。
その後、温め直したシチューを食べながら、エドワードが機嫌良くリゼンブール時代の子供の頃の話をするのを聞き、デザートのドーナツを食べる頃には自分の話ばかりはずるいからあんたの子供の時の話も聞かせろ、ロイ坊! などと言い出したのを、そんな子供も頃のことなんて忘れてしまったよとのらりくらりと交わしながら、賑やかな夕餉を過ごすこととなった。
その日は一晩、軍からの緊急の電話などもかかってくることもなく。


そんな二人のやり取りを知っているのは、玄関先のジャック・オー・ランタンだけなのであった。
作品名:Trick or Sweets! 作家名:はろ☆どき