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エンドマークの位置

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夜、おそらくは深夜であろうと思われるころ。
大抵の人間はベッドか布団の中で眠りについているはずで、勿論俺もご多分に漏れず、一日の疲れを癒すべくそれなりにふかーい眠りについていた。
そんな心地よい眠りのワンダーランドから俺を強制的に引きずり上げたのは、携帯の着信音だった。
よくよく考えたらその音はメールの着信音であったため、取り急ぎ確認の必要もなかったのだろうが、寝惚けた無意識とは憎たらしいもので、俺は鳴り止んだ携帯を手に取り、そのメールを確認した。
開かれた画面の眩しさがかなり目に痛く、目を細めて文章を読もうとするが、そこには何もなかった。

「あぁ?」

2、3度瞬きをして再度開いたメールを眺めてもそこに文章、もしくは単語などは見当たらず、あえて言うならば文章終了を示す「-END-」が1行目中央にぽつんとあるだけだった。
件名を確認するが、そちらも空白。
これは、いわゆる空メールというやつだ。

「なんっだってんだくそっ!目が覚めたじゃねぇか!」

時間を確認すれば0時を過ぎたばかり。
こんな時間に空メールなど、悪戯か嫌がらせとしか思えない。
眠りを邪魔されたことでより鮮明に覚醒してしまい、俺はベッドから起き上がり、改めて携帯画面を睨みつけた。
メールの一番上に表示されている差出人の名前はイコール、この悪戯(兼嫌がらせ)の仕掛け人であり、それは「古泉一樹」とある意味一番相応しい名前が表示されていた。
つまりそれは仕返しをためらう必要がない、というわけで、俺は即座にそいつへ抗議するべくメール画面を終了させ、電話帳から古泉一樹を呼び出した。
メールに返信など生ぬるい。
俺は電話番号をプッシュし、そうして相手が出るのを待つ。

「・・・・・・」

2コール
3コール
・・・・
10コール
11コール
・・・・・・・・・

よし、これは本格的な嫌がらせであると判断した。
コールを重ねても相手は出ない。
メールが送られてきてから早々時間はたっていない。
古泉が意識的に送ってきたのであればまだ確実に起きているはずである。
なのに、出ない、とは・・・

「出るまで鳴らしてやる・・・」

そうか、そうか!
ここまでが嫌がらせの範囲だなわかった。
こうなりゃお互い根競べだ!
古泉が電話に出るまで俺はかけつづ・・・

『もしもし?』

新たな決意をしたところでようやく古泉が出た。
まだかかるかと思っていただけに些か拍子抜けだ。
だが、まあそれはいい。

「古泉っ!おまえなぁ・・・」
『すみません、ちょっとシャワーを浴びに行っていたもので・・・お待たせいたしました』

シャワー?
おまっ、人に嫌がらせして自分は・・・ああ、もういい!
とりあえずは何か言わないと気が治まらない。

「ああ待たされたよ!ていうか、なんなんだお前はいったい。夜中にいきなりメール送ってきやがったと思ったら空メールなんか送ってきやがって!」
『あ、えと、それで・・・?』

そうだよ!それで電話だよ!

「ひとこと文句言ってやろうと思ってな!それだけだ!」
『そう、ですか・・・ふふっ』
「なんだ?」

古泉が面白そうに、いや、ちょっと落胆したような、低いトーンの笑いを受話器の向こうで震わせた。

『いえ、すみません。ちょっとした操作ミスのようです。まさかホントに送られているとは思わず』
「それでこっちの睡眠妨害されたらたまんねーよ。覚えてろよ」
『本当にすみません。このお詫びはいずれ・・・』

なんだ?
ミョーに引きがよくて気味が悪い。
操作ミス?
しかし、そもそもメールを送るつもりでメール画面を開いたりしなければ、うっかりメールの送信ミスなども起こらないんじゃ?
だから、古泉は・・・

「お前、俺になんか用があったんじゃないのか?」
『いえ、特には・・・ちょっとメールの整理をしていたのでそれででしょう。本当にすみません』
「・・・・・」
『おやすみのところをお邪魔してすみませんでした。今からでしたらまだ十分眠れるでしょうし、今度はお邪魔しませんよ。おやすみなさい』

確かに、春休み中で明日特に何も予定のない状態なら今からだって十分な睡眠がとれる。
古泉に言うだけは言ったわけだし、あとは中断された眠りを存分に味わうべきではなかろうか。

「あー、じゃあな」
『はい、おやすみなさい』

そうして、俺が電話を切ろうと受話器を離しかけた時。

『ありがとうございます』

そう聞こえた。
聞き返そうとするも、既に電話は切れており「つーつー」と無機質な音が続くだけ。
わざわざまた電話するほどでもないといえば、ない。
なので結局、俺は納得の得ない引っかかりを覚えつつ、再びベッドに横になった。
けれど、気になる事があるとそればっかりが気にかかるのは道理であり、俺は目が冴えた状態でただ天井を見上げた。
そうして、古泉の先程の空メールを再び開いた。
だが見直してもやはり何も書いておらず、ただ「-END-」があるだけ・・・

「ん?」

不意に、下ボタンを押したらスクロールされた。
文章が「-END-」で終わっていればそれから先には進まないはず。
そうしてよくよく見れば、画面上のカーソル表示には下への矢印が点灯しており、つまり、メールがまだ続いている事を示していた。
なんということだ、やられた。
エンドマークは直接打ち込まれたもので、真のそれはまだ下方に続いていた、というわけだ。
それに気付いた俺は下ボタンを連打し、次の文章が出るのを待った。

わりあいすぐに、その文章は見えた。

『声が聞きたくなりました。電話してもいいでしょうか?』

なんだ、あいつめ、それぐらい素直に書きやがれ!
こんなこと言われてたら、もうっちょっと心穏やかに電話してやることもできたってのに。
って、うん?

ここで終わりかと思いきや、下方を示すカーソルはまだ消えてなかった。
なんだ、メールはまだこれだけじゃ終わってなかったのか?

また下ボタンを連打して、出てきた文章を見た。
今度こそ最後のようでカーソルボタンは消えた。
エンドマークも今度は確かに文章の最後を示しているようだ。

『今日の日付をご確認ください。そういうわけですので、ちょっとしたジョークです。どうかお気になさらず。おやすみなさい』

「っな・・・!!」

確認した。
4月1日でいわゆるエイプリルフールデイ
つまり嘘のつける日で・・・つまり、このメール自体がジョークメールで内容もウソッパチで・・・

「あー!!もう知らん!最後の文は見てない知らん!!」

くそっ、エイプリルフールで騙されたと分かった瞬間のこの脱力感。
もうどうでもいい。
エイプリルフールなぞ気付かなかったふりして古泉の声が聞きたい発言だけにしておこう。
そっちの方が精神衛生的にも安心ってもんだ!

くそっ、古泉め、覚えてろよ!


作品名:エンドマークの位置 作家名:由浦ヤコ