全てのあと
鬼柳がおかしなテンションで遊星に絡み、それにジャックが加わって、さらに面倒なことになったり。ミスティが年上の品格でもって、アキとカーリーの恋を後押ししたり。部屋の片隅ではディマクが双子に慰められていたり。
そんな騒がしい場所から少し離れたバルコニーは、静かな冷たい空気に満ちていた。
涼しげな夜風、丸く浮かんだ満月。ライトアップされた庭園は、さすがミスティのものだけあって、センス良く統一されている。
確かにきれいだ、とぼんやり他人事のようにボマーは思う。いくつもの感情が上滑りしていくのは、彼の心を占めて離さないものがあるからだ。それは故郷と、故郷にいる兄弟のことだった。村民たちも、きっともう戻っているだろう。
「あんたはあっち、行かねーのかよ」
物思いに耽っていたボマーに、不意に暗闇から声がかかる。振り向くと、チキンを頬張ったクロウが、よう、と口を動かした。
「…それはお前も同じだろう」
「俺はあいつらと、いつでも話できっからな。でも、あんたは違うだろ」
びし、とクロウは骨だけになった鶏の足で、ボマーを指す。ボマーがいぶかしげに眉をひそめると、クロウは手に皿を持ったまま、ゆっくりと隣まで歩いてきた。
「すぐ、帰るんだろ?故郷へ。兄弟のところへ」
「…!それをなぜ…」
「わかるのかって?わかるさ。だって俺があんたなら、きっとそうする」
ボマーが困惑にますます眉間のシワを深くすると、クロウは白い歯をこぼして、くしゃりと笑った。
「だから、帰る前に謝っておきたかったくてよ」
「は、」
「悪かったな、八つ当たりみたいにデュエル挑んじまって」
月明かりに照らされて、自分を見上げるクロウの顔が、はっきり見えた。穏やかに透き通った灰色の瞳は、こんなにもきれいだったのか。あの時は、お互い頭に血がのぼって、冷静に考えることができなかった。ボマーはゆっくりと首を横に振る。感情をぶつけ合うだけのデュエル。ヘルメットとスピードに隠されたもの。戦うだけでは見えないことも、たくさんあるらしい。
気が付いたら、クロウの左手が差し出されていた。ボマーは少しだけ逡巡したが、その手を握って握手を交わした。そして柔らかく口元をゆるめ、笑みを浮かべる。
「…こちらこそ、すまなかった」
「へへっ、お互い様だろ!」
口の端を上げ、おかしそうにクロウは笑う。ボマーも、それを見てそっと微笑んだ。
透明な夜風が二人の間を吹き抜ける。それはこれからの未来を思わせるようだった。