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忘れえぬ景色

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眠りの底に居たはずの意識が、幾度と無くかけられる声に浮上を余儀なくされた。
重い目蓋を上げて枕元の時計を見ると、長針と短針が一つになって頂上に居た。

“零時じゃないか・・・。なんだって言うんだ”

アムロは眠りを中断させられた腹立たしさを抱えて、傍らを見やる。
暗闇の中でも輝く金髪が目に入り、窓から差し込む月明かりを受けて煌く碧眼が、一心不乱に己を見つめていた。

「・・・なに?・・・」
眠気を多分に含んで掠れ気味の声で、傍らで何故か正座をしている男に問う。

「アムロ!」
「はい・・・だから、なに」
「Happy Birthday!!」
「・・・はぁ?」
「Happy Birthdayだよ、アムロ」
「・・・・・・・・・」
「共に暮らし始めて10年。そして、君が私と同じ40代になった記念すべき日だ。なんと言ったか・・・ア・・・ホ?」
「『阿呆ぅ』?? 人をたたき起こしておいて、ご丁寧にもあんたは日本語で喧嘩売ってんのかよ」
「違う!! 断じて違う!!日本語で4 0を過ぎた事を略した言い方があって、ア何とかと言うんだったが・・・」
「・・・・・・・・・アラフォー・・・だろ」
「そう! それだ!!」
「あんたさ、それ言いたいだけの為に俺の睡眠を妨げたのかよ!」
「だが! 君が初めて私の手を取ってくれて10年目だ。君が30代に突入した時は、アルテイシアと三人でのディナーだったが、まだ、君が私の全てを受け入れてくれていたわけじゃなかっただろう? 君が育てた薔薇を誕生日の君から私が貰ってしまったが、こうして一つベッドを共にしてくれてもいなかったわけだし・・・」
「それでこの前から色々と画策していたってわけか」
「画策だなどと人聞きの悪い! サプライズを計画していたと言って欲しい」
「で? 何をプレゼントしてくれるっての? こんな真夜中に」

怒っていても状況は変わらないと言う事を、アムロはこの10年で嫌と言うほど体験してきていたので、シャアの計画を実行させてやる事にした。
矛先を向けてあげると、いい年をした男の顔がこれ以上無いほどに綻ぶ。

「今年のプレゼントはこれだ!!」
シャアの手元でカチリッと何かのスイッチが入った音がするなり、天井から壁を埋めるように無数の小さな光が投影された。

「・・・・・・星・・・空?」
アムロは驚きにベッドの上で起き上がった。

「そうだ。君が私の為に捨ててきたあの宇宙を、この地上で戻してあげたいと思ったのだよ」
「・・・・・・既存の製品じゃないな」
「わかるかね」
「地球から見た星じゃないからな。星座として配列されていない。これ・・・サイト6の・・・。あのコテージから見た・・・」
「さすが、私のアムロだ。そう、ララァが見ていた、あの宙だ」
「・・・まさか、貴方がこれを作ったのか?!」
「プラネタリウムの作り手に教えを請うてね。星としての穴の数は10万個以上ある」
「じゅ!・・・十万個ぉ??」
「更には、日によっては地球や月、他の惑星も入り込むようにしてある」
「どんだけ金、費やしたんだよ!!」
「君の為に使う金銭に、惜しげなど無いな。君に替えられるものなど、どれだけの金を積まれても存在しないのだから」

あまりの手放しでの言葉に、アムロは脱力したかのようにベッドに倒れ付した。

「喜んではくれないのかね?」
少しだけ意気消沈した声音が、嘗ての総帥閣下の口から零れ落ちた。

「喜びより驚きのほう。・・・・・・でも、嬉しくないわけじゃないよ。貴方の気遣いは、とても嬉しい」
「良かった」
「だけどさ、こんな凄いプレゼント貰ったら、17日には何を返したら良いか悩んじまうな」
「私は、君が居てくれるだけで良い。君という存在が私の傍らに居てくれる。それだけで天界からの贈り物を毎日貰っている心持なのだから」
「安上がりな事で・・・」
「安上がりだなどと、とんでもない。君を手にする為にどれだけの費用がかかっていると思うのだね? ネオ・ジオンを立ち上げ、アクシズを買い取り、サイコフレームの開発にサザビーの製造等々。上げたら君が卒倒するだろう金額を投入して、初めて手に入れる事が叶ったのだ。安上がりどころか、金食い虫だ」
「俺のせいだって?」
「いいや。私の我儘だよ。君を手に入れる事が出来るなら、全資産を投げ打っても構わないとまで思ったのだ。そして、今、君はこの腕の中に居てくれる。この幸せを少しでも君に返したいと思うから、毎年、この日の贈り物には力が入るのだ」
「毎年毎年、手を変え品を変え…。手作りのマドレーヌだった事もあったし…。でも、来年からは気楽なものにしてくれよ。俺が心苦しいから」
「・・・・・・ああ。そうだな。君が返したいというなら、今年の私の誕生日に、して欲しい事がある」
「何? 俺に出来る事?」
「君にしか出来ない事だ」
「何?」
「1日中、私の側から離れないでくっついていて欲しい。私に君の体温を感じさせていて欲しい」
「それ、同等の価値、あるのか?」
「私にとってはね。充分だよ」
「・・・・・・そ・・・か」

アムロはそう言うと、おもむろに両手を挙げてシャアを誘った。シャアはその手を自分の首に回して、アムロの身体に覆いかぶさった。
「どうしたのかね? 珍しく積極的だな」
「違う! すっかり冷えちまったから、貴方で暖まりたいだけ」
「・・・・・・つれないな」
「嫌んなった?」
「太陽が西から昇っても、それはありえないな。そんなつれないところも君の魅力だから」

そう言うとシャアはアムロを深く抱き寄せ、揃って再びの眠りの苑へと足を踏み出していった。
2012.11.03

*設定はHoly Night cafe様に献上してきたafter CCA捏造話です。宜しかったらご訪問頂いてご一読下さい。
 知らなくても、何となく雰囲気でラブラブな二人を感じて貰えれば…
作品名:忘れえぬ景色 作家名:まお