第1話 かけがえないパートナー
目ぇ、開かへんやろか……。
ピンク色の軟体動物のような小さなデジモンが倒れている小柄な男の子の、腕の間からちょっとだけ見える寝顔を覗き込んでいた。
揺すったり乗っかったりして起こそうかと思ったが、いきなりでびっくりされても自分が悪いだけだから、彼が目を覚ますまでひたすら待つことにした。
途方もない時間を待ち続けて、やっと会えた大切な人間。
名前も知っているし顔もわかっていた。
会ったことはない、でも出会うために自分は彼を知っていた。
それが当たり前だったから、他の仲間も同様に、なんの疑問も待たなかったから。
ケガした…ちゅうことはありまへんよな……。
まだ起きないことを確認して、デジモンは男の子の周りをくるりと一周してみる。
空から降ってきた時は、嬉しくて何も考えていなかったけれど、これは彼にとってもの凄いことだったのではないかと不安になった。
だが男の子の体に傷はなく、それどころか服に砂埃1つない。
ほ…と安心して、再び寝顔を覗いてみる。
「う…ん……」
「あ!」
伏せられていた瞼が震え、やっと起きる!…と期待してそのつぶらな瞳を輝かせた。
しかし男の子はデジモンの見る前で目を開かず、首を反対側に捻ったところで薄く目を開けた。
「あ、あれ~…?」
すぐに起き上がり地面にしゃがむ体勢になった男の子の後姿を見ながら、デジモンはひょいと飛び跳ねたが、そのまま男の子を見続けた。
光子郎の方から、こっち見てくれへんやろか…?
淡い期待を小さな胸に込めて、デジモンは黙っていた。
一方男の子は何度も目をぱちぱち瞬きしては、見る物を疑っているらしく黄色の手袋をはめた手で目をこすったり、単語にならない言葉を連ねて口に出したり、きょろきょろと首を回してみたり……。
「ええ!!?」
「…!」
いきなり振り向いた男の子が、自分を見た途端に悲鳴のような声とともに目を丸くしたものだから、デジモンの方も準備していた言葉がすぐに出なかった。
しかもざっ、と身を引かれた。
怖がらせてしまった…との心配をして、悲しくなった、が、
「何…これ?人形…じゃないよね、というか、さっきと顔が変わってる気がするけど…」
怖がっている、というより不思議がっているようだ。
瞬きもしないでじっと男の子を見続けていると、彼の方からそっと手を伸ばしてきた。
どき!と嬉しさから跳ねそうになったが、それこそ驚かすことになりそうなので我慢。
ぷに…。
「あ…柔らかい。じゃあやっぱり、こういう素材のおもちゃ、かな…?」
小さな手が身体を突き、感想を述べる。
恐怖感が薄れてきたのか、大きな瞳が好奇心にきらめき始め、そろそろと両手でぎゅっとデジモンを―――本人はまだ気付いていないけど―――掴んでみた。
「光子郎、痛いんやけど」
「ふぅえ!!!」
にこっと微笑みながら声を出したら、予想通り自分を掴んでいた手を放し飛ぶような勢いで後方に身を引いた。
男の子にはちょっと悪い気はしたけれど、イタズラっぽくてへへと頬を掻いてみせた。
「い、今…喋ったの……って、君…?」
「そうやで、光子郎!」
ぴょんと自分の方から男の子に近寄ると、案外男の子はもう動じないではあ~とデジモンをしげしげ眺め始める。
「こうしろう…て、どうして僕の名前、知ってるの?」
「それは…」
「それに、ここはどこなんですか?君は何者なの?喋るし、動くし、柔らかい体だし。他の皆さんは、どこにいるんですか?僕の他にも子供がいたでしょう?」
「……そんな、いっぺんに言われましても…」
「あ、そうですね。ごめんなさい」
一通り疑問を吐き出して、答えは得ないまま立ち上がった男の子・光子郎は、デジモンに振り返らず歩き出してしまった。
あわわとその後を追いかける。
「どうしてついてくるんですか?」
「どないして、って言われましても…。わて、光子郎のこと待っとったんやで…」
「僕を…待ってた…?」
また「どうして?」と聞き返されると思って答えを探し始めたが、予想ははずれ、光子郎は森の中を進みだした。
なんだか自分のことが眼中にないようで寂しい。
光子郎の関心は別のところに向いてしまっているんだと本能で悟った。
きっと自分が何者かわからないから…。
そう思った時、デジモンはふと思いついて光子郎のズボンを引っ張った。
「なんですか…、えーっと…」
「モチモンです」
「え…?」
「わては、モチモンいいます。わてが何者か、わかりましたやろ?」
「……。ええ、そうですね」
あ…。
ふわっと笑った光子郎の表情に、モチモンは安心したような…穏やかな気分になった。
笑顔で返すと光子郎は、あ…としゃがみこんでモチモンに尋ねてきた。
「ねえモチモン。僕、他の人間を探したいんですけど、手伝ってもらえますか?」
「もちろんでんがな!!」
こっちや!と先導して、仲間達が向かったであろう、誰かのパートナーのもとへ光子郎を案内する。
まだまだ…、まだこれからなんやな…。
ピンク色の軟体動物のような小さなデジモンが倒れている小柄な男の子の、腕の間からちょっとだけ見える寝顔を覗き込んでいた。
揺すったり乗っかったりして起こそうかと思ったが、いきなりでびっくりされても自分が悪いだけだから、彼が目を覚ますまでひたすら待つことにした。
途方もない時間を待ち続けて、やっと会えた大切な人間。
名前も知っているし顔もわかっていた。
会ったことはない、でも出会うために自分は彼を知っていた。
それが当たり前だったから、他の仲間も同様に、なんの疑問も待たなかったから。
ケガした…ちゅうことはありまへんよな……。
まだ起きないことを確認して、デジモンは男の子の周りをくるりと一周してみる。
空から降ってきた時は、嬉しくて何も考えていなかったけれど、これは彼にとってもの凄いことだったのではないかと不安になった。
だが男の子の体に傷はなく、それどころか服に砂埃1つない。
ほ…と安心して、再び寝顔を覗いてみる。
「う…ん……」
「あ!」
伏せられていた瞼が震え、やっと起きる!…と期待してそのつぶらな瞳を輝かせた。
しかし男の子はデジモンの見る前で目を開かず、首を反対側に捻ったところで薄く目を開けた。
「あ、あれ~…?」
すぐに起き上がり地面にしゃがむ体勢になった男の子の後姿を見ながら、デジモンはひょいと飛び跳ねたが、そのまま男の子を見続けた。
光子郎の方から、こっち見てくれへんやろか…?
淡い期待を小さな胸に込めて、デジモンは黙っていた。
一方男の子は何度も目をぱちぱち瞬きしては、見る物を疑っているらしく黄色の手袋をはめた手で目をこすったり、単語にならない言葉を連ねて口に出したり、きょろきょろと首を回してみたり……。
「ええ!!?」
「…!」
いきなり振り向いた男の子が、自分を見た途端に悲鳴のような声とともに目を丸くしたものだから、デジモンの方も準備していた言葉がすぐに出なかった。
しかもざっ、と身を引かれた。
怖がらせてしまった…との心配をして、悲しくなった、が、
「何…これ?人形…じゃないよね、というか、さっきと顔が変わってる気がするけど…」
怖がっている、というより不思議がっているようだ。
瞬きもしないでじっと男の子を見続けていると、彼の方からそっと手を伸ばしてきた。
どき!と嬉しさから跳ねそうになったが、それこそ驚かすことになりそうなので我慢。
ぷに…。
「あ…柔らかい。じゃあやっぱり、こういう素材のおもちゃ、かな…?」
小さな手が身体を突き、感想を述べる。
恐怖感が薄れてきたのか、大きな瞳が好奇心にきらめき始め、そろそろと両手でぎゅっとデジモンを―――本人はまだ気付いていないけど―――掴んでみた。
「光子郎、痛いんやけど」
「ふぅえ!!!」
にこっと微笑みながら声を出したら、予想通り自分を掴んでいた手を放し飛ぶような勢いで後方に身を引いた。
男の子にはちょっと悪い気はしたけれど、イタズラっぽくてへへと頬を掻いてみせた。
「い、今…喋ったの……って、君…?」
「そうやで、光子郎!」
ぴょんと自分の方から男の子に近寄ると、案外男の子はもう動じないではあ~とデジモンをしげしげ眺め始める。
「こうしろう…て、どうして僕の名前、知ってるの?」
「それは…」
「それに、ここはどこなんですか?君は何者なの?喋るし、動くし、柔らかい体だし。他の皆さんは、どこにいるんですか?僕の他にも子供がいたでしょう?」
「……そんな、いっぺんに言われましても…」
「あ、そうですね。ごめんなさい」
一通り疑問を吐き出して、答えは得ないまま立ち上がった男の子・光子郎は、デジモンに振り返らず歩き出してしまった。
あわわとその後を追いかける。
「どうしてついてくるんですか?」
「どないして、って言われましても…。わて、光子郎のこと待っとったんやで…」
「僕を…待ってた…?」
また「どうして?」と聞き返されると思って答えを探し始めたが、予想ははずれ、光子郎は森の中を進みだした。
なんだか自分のことが眼中にないようで寂しい。
光子郎の関心は別のところに向いてしまっているんだと本能で悟った。
きっと自分が何者かわからないから…。
そう思った時、デジモンはふと思いついて光子郎のズボンを引っ張った。
「なんですか…、えーっと…」
「モチモンです」
「え…?」
「わては、モチモンいいます。わてが何者か、わかりましたやろ?」
「……。ええ、そうですね」
あ…。
ふわっと笑った光子郎の表情に、モチモンは安心したような…穏やかな気分になった。
笑顔で返すと光子郎は、あ…としゃがみこんでモチモンに尋ねてきた。
「ねえモチモン。僕、他の人間を探したいんですけど、手伝ってもらえますか?」
「もちろんでんがな!!」
こっちや!と先導して、仲間達が向かったであろう、誰かのパートナーのもとへ光子郎を案内する。
まだまだ…、まだこれからなんやな…。
作品名:第1話 かけがえないパートナー 作家名:かしわ乃