クールダウン
全ての熱を解放し、ひっそりと静まり返った薄闇の中。フェリシアーノは全身の力を使い果たして、ぐったりと横たわっていた。
まるで訓練で全力疾走した後みたい……心臓はドキドキしてるし、息だって苦しくって、まだハアハアいってる。体の力だって、全部抜けちゃって全然動けない。
けど、訓練じゃこんな気持ちには絶対なれない。充足感っていうのか、満足感っていうのかな……苦しいのに、すごく気持ちいい。
どうにか目だけをゆっくりと動かすと、隣にいるルートヴィッヒもまだ目を瞑って呼吸を整えようとしていた。
体力自慢のルートだってそうなんだから、俺なんかそうなって当然だよね……
そんなふうに思うと、まだ息苦しいのに、不思議と笑みがこぼれた。
今ではもうすっかり慣れっこになって、初めの頃みたいな感激はないけれど、その後に毎回必ず訪れるこの時間は嫌いじゃない。
さっきまでの痺れるような絶頂感とは反対に、体がゆっくりとクールダウンしていく。でもそれはいわゆる『白ける』とか『冷める』って感覚とは違う。
さっきまでいた荒れ狂う海の表面を離れて、ゆっくりとしずかな水の底へ沈んでいくような感じだ。
こぽこぽこぽこぽ……
ちっちゃな空気の泡がゆっくりと青い海面へと上っていく。
俺は海の柔らかな腕に抱かれて、ゆっくりと水の底へと沈んでいく。
ゆっくり、ゆっくりと。
波の上にいる間は大好きな人とずっと一緒だったけど、今はひとりだ。だけど、不思議と孤独感は感じない。
いつも絶頂の時が来て、ジェットコースターみたいにそれが過ぎた瞬間は、このまま離れたくない、大好きな人とずっとひとつのままでいたいって思う。
でもずっとそうしているわけにはいかない。
仕方なくふたりが離れる時は『俺たちは今、こんなにひとつなのに、どうして引き裂かれなきゃならないの?なんで別々になってしまわないといけないんだろう』って、すごく残念に思うけど、
いったん離れてしまうと、不思議と、
『ああ、そうじゃなかったんだ、これで良かったんだな』って思い出す。
そっか……俺とルートとは、元々、別々のそれぞれ一人の人間だったんだって。
人が聞いたら、変に思うかもしれないね。ルートだってきっとそう言うだろうな。
でもね、俺には忘れられない言葉があるんだ。
昔、大好きなひとと離ればなれになって、俺がひとりで泣いてたら、その人はこう言ってくれたよ。
『ひとはふたりいるから、ひとつになる喜びを味わうことができるんだよ。
一度離れてから、またくっつくと、相手のことをもっと好きになる。
そうやって離れては、くっつくたびに、その人が自分に取ってどれだけ大事な人か、確かめることができるんだ。
それに、離ればなれになっても、縁があればまたきっと逢える。
だから泣かないで、いつかきっとまた逢えるよ、諦めないで』
って。
俺はね、泣きながらその人にくっついたんだ。その人は俺のこと、抱きしめてくれたよ、一緒に泣きながらね。
大丈夫、大丈夫だよって言いながら。
その時、俺はその人のことが大好きなんだって思ったよ。
……うん、ずっと前から一緒にいたし、ずっと前から好きだったけど、また改めてその人のことが好きになったよ。
フェリシアーノはくすりと笑った。
……恋人とか、そういうのじゃないけどね。
……え、その人は、今はどうしてるかって?
うん、今も元気でいるよ。大好きな人と一緒だよ。