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遠い昔の誰も知らない物語

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このお話は遠い遠い昔のお話。

   誰も知ることのない名もない少年の“おとぎばなし”





『僕はなにもしていないのに‥』

「消えろ!消えろ!!鬼の子め!!」

飛び交う罵声と暴力。

『‥‥ただ生まれただけなのに』

「ちっ、なんでこんなのがこの集落に‥‥」

そういってまた僕は斬りつけられる

‐ただ生まれただけで人に忌み嫌われる‐

『‥‥もう悲しいことなんて何もないさ』

そう思ったときふとみた小さな小屋の外に広がる夕焼けのなか

手を引かれている幼い子の姿が見えた

……なんだろうこの気持ちは…

『‥あぁ、そうか。僕はなにも知らないのか。

怒られたあとにかけてくれる優しい声も‥

泣いたあと手を差し伸べてくれるその手の温もりも‥』

僕の目からは自然と涙があふれてくる

『‥う、そだ。“もう悲しいことがない”なんて嘘だ‥。

   本当は寒いんだ。本当は悲しいんだ‥‥。』

いつものように僕は集落の人に暴力をふるわれる

『なんで僕は死ねないの?なんで……?』

手を握ってもらうという小さな小さな夢すら見れないのに



それから数日後‥

「ねぇ、キミの名前が知りたいな?」

暴力をふりにくる大人たちしかこない

この集落の外れにある小さな小屋にその少女は来た。

「‥‥ねぇ、キミの名前、教えてよ」

彼女は僕からの返答がないことに気がついてゆっくり、はっきりと言った

『ごめんね、僕には舌がないから話せないんだ‥

…それに名前もないんだよ。だから、もしも話せたとしてもいえないんだ』

彼女は僕が話すことができないことに気づいたのか

それ以上は聞かないで話し始めた

「‥ねぇ、一緒に帰ろう」

彼女は僕の手枷と足枷をはずしと手を引いて歩き出した

僕達は夕焼けの中を歩く

『僕はなにも知らないんだ。』

‐そう、キミが子どもではないということも僕は知らない‐

『けれどずっと望んでいたこの手の温もりは本当のものなんだ』

彼女は僕の手を引いてずっと歩く

『なんで僕のことを連れて行くの?見つかったらキミは殺されるんだよ?』

‥ずっと降っていた雨が止んで、そして忌み嫌われる少年少女は

あのきれいな“夕焼け”の中に消えていく

夕焼けが闇の中に消えた頃にはもう僕たちは遊び疲れてしまった

そんなとき

「いたぞ!鬼の子だ!!」

「捕まえろ!!」

「殺してしまえ!!」

遊び疲れた僕たちに抵抗する力はなくて‥

彼女は僕より先に大人たちに捕まって僕に呟いた

僕に一番綺麗な笑顔を浮かべて

「―――――――」

「殺せ!殺せ!!」

「忌み子を殺せ」

「鬼の子を殺せ!!」

彼女は錆び付いた剣を振り落とされた

『僕とキミ以外、みんないなくなっちゃえばいいのに‥』

何度も何度も剣を振り落とされた後彼女は、死んだ

‥‥そして僕は強く願った

『‥皆いなくなればいいのに』

「―――――――」

聞いたことのない声が耳鳴りが聞こえた、

その直後あの綺麗で、真っ赤な夕焼けが現れて‥

僕と彼女以外の世界中の人々は夕焼けの方に吸い込まれて消えてゆく

『‥僕はなんにも知らない』

彼女を抱きしめながら僕は出ない声で言う

『キミの名前だって僕はしらない‥

でも、それでも‥』

‐いまはこれでいいんだって本当に、思うんだ‐

さっき聞こえたあの声は、あの耳鳴りは人々と同じように夕焼けの中に消えた

…僕の目からたくさん涙が出るけれど

今までと違って暖かい涙なのは

キミといらえて幸せだったから。

ほんの少しの時間だけど一緒にいられて幸せだったから。

それに彼女が言ってくれたからだろう

「君に会えてよかったよ。ありがとう」と

だから僕の涙はこんなに暖かいものなんだ

僕は彼女をさらにきつく抱きしめて

-ありがとう。おやすみなさい-と小さく呟いた