二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

王道CPで4つの短篇

INDEX|1ページ/2ページ|

次のページ
 

―1072の場合―

「結局は、さ」
茹だるような暑さから遮断された部屋の中で、徹と背中合わせに座っていた夏野が唐突に話しかけてきた。
が、夏野がそんな風に話し掛けてくることはザラで、それに慣れきってしまっている徹は慌てる素振りも見せずに振り返ることなく、徹はテレビゲームのコントローラーを掴んだまま答える。夏野が自分に話し掛けてくれたことで、緩む頬を悟られないように。なんでもない振りを装って。
「ん?」
「人間がこれ以上進化しないのって、『好き』だとか『愛』だとかそんな感情を抱えているせいなんじゃないかな?」
「・・・突然だな。」
夏野のあまりに急で、更に難解な問い掛けに、徹は掴んでいたコントローラーを手離してしまった。Gameoverの文字が暗転した画面にやけに毒毒しい。
「徹ちゃんは、そう考えたことはない?」
「んー?無いな。」
「何で?」
「何でって、そりゃ・・・『好き』とか『愛』とかそういう感情があるから前に進める時があるじゃん。だから、それは大事なものだと俺は思う。」
「ふーん?」
「夏野は、そう考えたことってないのか」
「無いな。いや、『無かった』って言うほうが正しいか。」
「は?」
「嫌いなものも必要なんだよ。きっと、『好きなもの』や『愛しいもの』だけじゃ、人間は成長できないんだ。自分を好きで居てくれて更にその存在を許してくれる人と、自分を嫌って弱点を探ろうとする人がいないと、人間は強くなれない。」
 確かに、そうだ。夏野の言うことは正しい。だけど、だけど俺は夏野からそんなセリフは言われたくなかった。
「・・・。」
だってそれは、俺だけじゃ足りない。と、言われているようなものだから。聞きたくなんてなかった。
「そんな顔すんなよ。」
 背中合わせなんだから、顔なんて見えるはずがないのに。そんなこと言うなよ。
夏野は狡い。いつも平気で冷たい正論を翳した後に、優しくて不器用な優しい言葉を照れることなく平然と言うのだ。その言葉で、俺がどれ程グラつくのか知りもしないで。
「べつに」
「嘘だ。声が拗ねてる。ったく、どっちが子供かわからないな。」
ふっ、と微かに空気が揺れる音がして、俺の背中に肩に項に腕に、少しだけ暖かくて少し重いものが覆い被さってきた。
「え、」
「頼むからさ、そんな可愛いことすんなよ。」
「か、可愛いって!?おま、」
「ずるいよ。徹ちゃんは、」
「何がだよ。」
困った。夏野の、猫っぽい気まぐれさにも慣れたつもりでいたのに、こうしたスキンシップを摂られたことはなかったから全く想定外だ。
「・・・変わらなくて良いって、この村じゃ一人で良いって、誰とも関係なんか持ちたくないって思ってたのに。徹ちゃんのせいだからな。」
「なつの?」
肩と項の間くらいから藤の花みたいに前に垂れた夏野の腕が、ぎゅうっと俺の胴を抱き締める。
「責任とってよ。」
「どうしたんだよ」
「変化を、成長だというのなら」
「うん?」
「徹ちゃんが俺を成長させたんだ。」
俺の持論も、計画も捻じ曲げて、『好き』と『愛』しいという気持ちだけで
 あんたに、好かれたいと云う気持ちだけで成長しただなんて言えやしない。















― 朝←菊の場合 ―


「信じてはもらえないでしょうが」
「あなたに出会うまでの私は」
「いえ」
「私には」
「怖いものなどなかったのですよ?」
私は手にした、この世で一番愛しいものを撫で回しながら一言一言を噛み締めるように語りました。
「本当です」
「嘘なんかじゃありませんよ」
「だいたい」
「私があなたに嘘をつくことがないことくらい」
「あなたが一番よくお分かりでしょう?」
それは白雪のように綺麗で白く、鴉の羽のように黒くて、絹と同じくらいにサラサラしていて、私はその感触に溺れたかのように同じことを繰り返します。
「私は」
「きっと」
「あなたに出会ってから」
「弱くなったのでしょうね」
成長の証である骨の軋みこそなかったけれど、感情を荒らげる胸の閊えだけがあったものです。
「ねぇ」
「そんなことを言ったら」
「あなたはどんなお顔を見せてくださるのでしょうか?」
「あなたが私を変えたのだと言ったら」
慶んで下さるでしょうか?
 そこまで考えたところで、微かに空いた障子の隙間からあなたの御髪と同じ色の空が見えてなんだか無性に泣きたくなりました。

老いに痛みは無く、只墜ちて征く様に朽ちて逝くのだと誰かが言ってた気がする






―アスキラの場合―

桜並木の下を通るたびに脳裏をかすめる残像に、アスランは微かな頭痛を覚えて立ち止まった。
「キラ」
アスランが呼んだそれは幼い日に別れた少年の名前であり、アスランの好きな人の名前だ。
最後に会った時は、色素の薄い黒髪が小春日の中で柔らかな茶色に染まりながら風を孕んで揺れ、水の様に透き通った淡い紫の瞳は涙で潤んでいた――愛らしく、華奢な見た目の通りの優しい少年だった。
同年代の子供と居ることが苦手なアスランになぜか良く懐き、甘え、逆に気遣ってくれた唯一の存在。
幼い頃に母を亡くし、父に邪険に扱われるようになっていたアスランにとってキラは掛け替えのない大切な人だったのだ。
だから、最後にあった日――別れの時を連想される桜の季節は彼には酷としか言いようがなかった。
「はは、本当に俺は馬鹿だ。」
言えないで後悔するよりは言えば良かったのに・・・まだ、取り返しが着くあの時に。
 大切なものほど、失ったときに気づくのだ。と、有り触れたセリフだとは思うけれど今の状況はまさにそれだ。
「・・・。」
誰がこんな未来を予期できたのだろう?一番好きな人と敵として再会し、互いに戦場を駆け、殺し合いをするだなんて。しかし、それでもアスランは彼を嫌いになれないでいた。
「結局俺は、あの頃から何も変わっていないのか。」

だって俺は、お前を好きなままで心は成長できないで居るんだから。















--ロイエドの場合--


俺の髪を撫でていた手が、頬をなぞり、顎を通過し、喉元に添えられたときにハッとなる。
「猫扱いすんじゃねぇ!!!」
「っ痛、こら、引っ掻くな」
「フーッ!!!」
「・・・却って、猫らしさが増しただけだと思うぞ。エド」
「ふん、」
もう、名前を呼ばれてもいちいち赤くなったりはしない。そんなことをする時季は登の昔に終わってしまったのだ。そう、ホムンクルスの一件が片付き、俺は成人になった。なのに、どういうわけかこの酔狂な恋人は二人きりになると俺をいつも膝に乗せる。どうせもう、俺を可愛いだとか思っちゃいないクセに。
 といっても、決して関係が冷えたわけでは無い。今も、なかなか言葉にはしないが互いに好きだということは察している。
「なぁ、ロイ」
「どうした?」
「俺たち、成長したよな。」
俺は、少し昔を懐かしみながら呟いた。
「それは仕返しか?」
「そうじゃなくて」
勘は悪くないくせにどうしてこの男はこうなのか?
「私はもう、成長したくないのだが」
「そうだな、俺もそう思う。もう、これで十分だよな。」
そう、俺はもう、これ以上を求めないだろう。
 欲しいモノと欲しかった者が手に入ったんだ。もう十分だよな。
作品名:王道CPで4つの短篇 作家名:でいじぃ