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die Liebe

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兄はリビングのソファに転がって眠っていた。

眠る直前まで読んでいたのだろう
傍らに投げ出された分厚くかなり古そうな本を見つけて、「おやじ」のものなのだろうと直感した。


兄は意外にも本が好きだ。
暇さえあれば本を積み上げた書棚から何冊か引っ張り出してきてはつまらなさそうに読み耽る。

もっとも、それは読書好きというよりも単純に「彼」の遺品だからという可能性もある。


ただ、彼の本を手にした兄の
何かを押し殺したようなその表情が少し寂しげに感じる事があるのは気のせいだろうか?



「…どうした?」


無意識に眠っている兄の髪に触れていた。

「あ?いや…すまない」


しまった。起こしてしまったか。
どうしたと聞かれても触ってみたかったというだけで、意味はない。

ただ、触れたくなる瞬間がある。


兄はしばらく不思議そうな顔でこちらを見ていたが、ふいにいつもの顔に戻って伸びをした。


「来いよ」
「!?」

突然、こちらにむかって両手を開げてみせた。
…本人にからかっているつもりはないらしい。
「あのな………」



どう反応していいのかわからない。


「兄さんは俺を一体いくつだと思っている」

とりあえず正当な突っ込みを入れておいた。
それにしても要らないところで勘が働くのはどうしてなんだ。


「ははは照れるなよ。あ〜ビールうめぇ」

照れているのはどっちだ。

傍らに置いてあった缶ビールをあおり、勢いよくテーブルに置くと乾いた音がした。

空き缶だったらしい。


「なぁヴェスト」
「…何だ兄さん」


「欲求不満だ」

身の危険を感じた。
それがとっさに顔に出てしまったらしい。
兄は慌てて否定した。

「ち違っ!待て!俺は別にいやらしい意味で言ったんじゃないぜ」

「ならどういう意味だ」


この人はもう少し言葉を選ぶべきだ。

「じゃ、ちょっと座って目閉じてみな」


兄の思い付きは突拍子もない。
なので取り敢えず、聞いておこう。

「俺に何をするつもりだ」
「兄貴警戒すんなよ!なんかしょっぺぇ」


…仕方ない。
このままではどうしようもないので
兄とはテーブルを挟んで向こう側のソファに腰掛けて目を閉じた。

「そっちかよ!」

兄が何か言った気がしたが、まあいい。
何を仕掛けて来るのかわからないので耳を済ませて兄の気配を追う。

まずソファから立ちあがり、ゆっくりとテーブルを迂回してこちらに向かってくる。

鼓動が早い。
ち、違うぞ!これは妙な期待からじゃない。極限に警戒しているからだ。


「!」

ふわりと、包まれた感じがした。
お互いにシャツ一枚のせいで体温が直に伝わる。
何とも言えない懐かしい匂いがした。

「ルート」

耳に届いた声はいつものそれで。
ただ、発音がちがった。

「兄さん」

反射的に顔を上げようとしたら
慌てて頭を抑え込まれた。
恥ずかしいらしい。

仕方ない。おとなしくしておこう。


…それにしても、この人の体はこんなに熱かったのか。


妙な安心感で満たされて、顔が自然と綻んでいく。

鼓動とともに振動する体
呼吸のたびに上下する薄い胸
背に回された無骨で暖かい腕

このすべてを失う可能性があったなんて、一時でも考えたくはない。

それはとても恐ろしいことだ。

「兄さん」


もう一度目を閉じて、しっかりと腕を背にまわした。

「いてえ…デカくなりやがって」

思わず力が入ってしまったらしい。
しかし、嫌がっている気配は全くない。

頭をわしわしと撫でられた。

やはり冷静になると少し恥ずかしいのだが、自分に足りていなかったのはこの温もりなのだと実感する。


「あー、これで最後かもしれないからよく聞いてくれ」

「ん?」

さっき頭を抑えつけられたお返しだ。
今度は逆に抑えつけてやった。

そのまま自分の唇を兄の耳に近づける。
一度は言っておかねばならないだろう。
二度と後悔しないために。


「………愛している。」
「俺は…言わなくてもわかるだろ」


………確かに。
迂闊にも少し笑ってしまった。


柄にもないことを口走ってしまったおかげで、しばらくまともに顔を見れそうにない。


今日はよく晴れている。

この腕を離したら、すぐにフェリシアーノのところにでも転がり込むことにしよう。
作品名:die Liebe 作家名:甘党