星詠みと科学の子
大切な存在を失ってしまったあの日から晴れた空も夜の闇もずっと同じに見えていた。
思い出だって星と同じ。
だってそうだろ?あの星は光の残像だから、今本当に存在しているかどうかなんてわからないんだ。
楽しかった思い出は、残酷に今ここに残像の光を残しているだけ。
触れられないし、温もりもない。
俺はそんなことばかり
ぐるぐるとバカみたいに考えて、暖かい思い出を作る事を極端に恐れて避けていたんだ。
「翼〜、まったくお前も懲りねえなぁ…」
焦げた匂いと舞い上がる埃に噎せながら涙目で俺を叱る。
というか、半分笑いながら呆れてる。
本気で怒られれば、さすがに俺もこんな事ばかりしてないし
その前に、とっくにこの場所には居なかっただろうな。
この人は、俺の事を本当によくわかってくれてる。
でも、ひとつだけ
絶対にわかってない事がある。それは、おれが実験に失敗する理由
材料の分量を間違えるわけじゃない。
発明の構想が甘かったわけじゃない。
そう、わざと間違えてる。
実は確信犯なんだ。
俺は計算が得意だし、会計の仕事だって滅多にミスしない。
よく考えたら変だろ?実験だけあんなに失敗率が高いなんて!
でも、実験は失敗しても不思議じゃないって何故かみんな思っているから
いいカモフラージュになるんだ。
あの人は俺が失敗したら、必ず構ってくれる。
俺に意識を向けてくれる。
子供っぽいかもしれないけど、俺にはこれが精一杯。
「程々にしておけよ?また颯斗にお仕置きされるぞ」
「うぬぬ…お仕置きは嫌だ〜」
「よし、じゃあ今のうちに証拠隠滅だ!さっさと片付けようぜ」
散らばった紙屑や煤を手で集めてゴミ箱に掬い入れる。
その背中が何故だか寂しくて、俺はつい触れてしまった。
「なんだ〜?お前もサボってないでやれよ?もうそろそろ来るぞあいつ」
作業に集中したまま振り返らずに
彼が放った言葉は、触れている手のひらに振動で伝わる。
あったかいなぁ…
耳に伝わる音、体から伝わる熱量と振動、心地良いこの人を感じられる自分はなんて幸せなんだろう。
「…翼?」
それでも闇が迫るんだ。
熱は冷める。光は消える。
いつか、必ず。
「どうした?ぬいぬい、変な顔!」
ああ、どうか今の俺がちゃんと笑えてますように。