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明日を待っている

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最近、爪が伸びるのが早い。苦髪楽爪って言うから僕は楽をしているのかな。これでも毎日忙しくしているんだけど。
 なりゆきで街の運営の手伝いをし始めてから随分な時間がたつ。
 街は変わった。どこにも壁はないし、路も整えられて、信号も機能している。道端で気のいい人たちが草抜きをしているのを見るとついつい手伝ってしまって、時々ミーティングに遅れるものだから皆に呆れられているよ。
 街路にはイチョウを植えた。秋になると黄色い葉がとても綺麗なんだ。落葉樹だから葉が落ちてしまうんだけど、それも街の彩りの一つだと思う。季節を感じるよ。
 銀杏もたくさんとれる。あの臭いには閉口するけど特長があっていいんじゃないかな。生きてるって感じがするよね。
 莉莉が「くさい、くさい」って笑いながら拾ってる。莉莉は恋香さんが作る茶碗蒸しが大好きなんだ。彼女は銀杏が食べられないけど「大人になったら食べるわ」って、ちょっと胸を張って言うところなんか思わず笑みを漏らしてしまうほど可愛らしいよ。妹ができて、最近おしゃまさんなんだ。
 母さんがつくってあげたピンクのワンピースをとても気に入っていて、何か特別なことがあったときに着るんだって。初めて卵焼きを上手に作れた日とか、学校の友達と仲直りをした日とか。そう、莉莉は小学生になったんだよ。
 僕に懐いてくれているけど、「ネズミのお仕事はいつ終わるの」っていつも言ってる。君は莉莉のお気に入りだから。
 そうそうイヌカシだけど力河さんにはバレちゃったみたいだ。年頃だから、やっぱり身体が丸くなってくるだろう? シオンへの愛情を見ていると母性ってあるんだなと思うよ。かなわないね。
 昔は力河さんも遠慮なくひどい口のききかたをしていたものだけど、調子が狂っちゃったんだろうな、相変わらずなイヌカシに散々にやられてる。
 先日、淡いグレーのもこもこした冬用のカーディガンを力河さんが持って来たんだ。襟元にボンボンがついててとても可愛らしいものなのに「シオンに」って。どう見たってイヌカシのためだろうに。案の定、「シオンは男だ」「女だったとしても何年後に着るんだ」「使えねぇ、おっさんだな」ってボロクソに言われてたよ。
 いつもこんな調子で、なんだか微笑ましい。イヌカシって妙なところで鈍感だよね。考えたこともないのかな、女性として扱われてるってことに。
 それにしても、本当にあっという間の数年だった。優しくて、楽しくて、信頼できる人たちに囲まれて、飢えることもなく健康に過ごしてきた。他の人から見たら何が不満なんだと怒られちゃうね。
 だけど僕は君を待ちすぎて少し疲れちゃったよ。
 君がいなくなって一ヶ月は忙しいのにぼんやりしてしまったりしてこんなことじゃいけないと自分を戒めて、それなのに半年たつともう寂しくて、でも一年たった頃には忙しさで寂しさをごまかすコツを掴んだ。こんなこと、上手になったって仕方がないのにね。
 空はどこまでも繋がっているなんて誰が言ったんだろう。そんな言葉に慰められたのは最初の頃だけで、今じゃ夕陽を見るのがつらいよ。空が朱く燃える景色は素晴らしいものなのに君が隣で同じ光景を見ていない。そのことがこんなにも苦しいなんて。
 君を愛してる、心から。
 おかえりのキスがしたいよ。唇の上に乗っている「さようなら」がいつまでたっても消えないんだ。そろそろ熱く溶かしてくれないと。君にしかできないことなんだから。
 僕の元から去るときはまたさようならのキスをしてくれればそれでいいよ。僕はおかえりのキスを返すから。そうして、二人で何度でも口づけを交わそう。
 そして忘れないでいて欲しい。君が戻ってくる場所はひとつだって言うことを。
 僕はいつでも窓を開けて、君が飛び込んできてくれる明日を待っている。
作品名:明日を待っている 作家名:かける