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青年は若芽を想う

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 タルシスに雪が降るのは珍しい。時折世界樹の峰から冷えた気が差し降りてくる為に気候はやや寒冷であるが、降るものの多くは穏やかな慈雨である。
 何かと気球に頼ることの多いかの地では降雪は厄介なものであり、交易港の貨物も、一部貴族の個人船も、冒険者達の小型船の殆ども、雪の降る日には停泊所でその頭に白く積もらせるまま静かに揺られている事が多い。

 一方雪の多い地である帝國領において、大型艦隊の黒い肢体には降雪に耐えうるだけの動力が備えられている。
 本日分の移民船は予定通り運行する次第となり、灰白色の天をごうごうと突き破りながらタルシスへと向かっていくのを白髪の青年が見つめていた。
 帝國のすべての民は長い冬以外を知る術を持たなかった。銀嵐ノ霊峰以北における降雪というものは、土地も家畜も人間の心をも凍てつかせる氷嵐である。青年も例に漏れずそのあまりにも厳しく長い冬を幾度となく越え育ってきた。そして痩躯を寄せ合い僅かに生える乾いた草木で飢えを凌ぎ、路傍に凍りついた雀の死骸に明日のわが身を重ね怯える全ての民を救いたいと一心に考えていた。かつてそんな己を臣下のなにがしかが「熱く、燃えるような志でございます」と賛辞した覚えがあるのをふと思い出し、青年は首を振った。帝國中で最も凍え、頑なに冷え切った魂を持っていた者は果たして誰だったのか。

 青年は踵を返し己の操ってきた小型の個人艇へ身を躍らせると、動力炉口に手をかざし融解しきった顔をした黒檀の鎧の騎士と目が合った。騎士は見る間に姿勢を正したのち、いかにも神妙気な面持ちで
「大変お見苦しい姿を」
 そう深々と下げた頭に青年は冷えた頬をほころばせて笑い、
「よい、久々のこの地の冬は冷えるだろう」
 そう告げながら、青年もすぐ隣へ足を運び鎧にこびりついた霜を落としていく。煌々と輝く炉の光はたちまち白く凍てついた鎧を溶かし、照らされた青年のなめらかな横顔は雪解けの流れる春の川を思わせた。
作品名:青年は若芽を想う 作家名:katabami38