ベロニカ生誕祭ss
その朝、一番に出会ったリダに怒られる。
「いつもと違う行動を取るときは、私に一言仰ってください」
護衛をなんだと思っているのか、と詰められると、苦笑いで応えるしかなかった。
「すまない、うっかりしていた。次からは気を付けるとするよ」
本当に反省しているのかわからない態度で言うベロニカに、リダはため息を漏らすしかなかった。
朝食を食べるからと向かった食堂では、リダの表情から何かを察したらしいバルトが何かあったのかを尋ねてくる。
「朝から、お一人で聖堂に向かわれて……」
何事もなかったから良かったものを。呆れるバルトの横にいたグレンは、パンをかじりながら首を傾げた。
「それにしても、朝から聖堂へ向かわれるのは珍しいですね。何かありましたか?」
「ん、ああ。グレンもいたのか」
ベロニカは朝食の載った盆を置いて、グレンの正面に腰を掛ける。
「くせ、というか、毎年この日には朝一番に聖堂で祈りを捧げるようにしているんだ」
ベロニカは一口、水を飲んだ。
「今日、なにかあるのですか?」
「なにかあるわけではないが、私の生まれた日だから」
今年も健やかに生きてこられたことを感謝しているだ。ゆっくりと放たれた言葉に、聞いていた三人は固まる。
ベロニカは不思議そうに見詰めていると、それぞれが口を開いた。
「今日……?」
「……誕生日、ですか」
「なぜ、もっと早く仰ってくださらないんですか!」
へっ、と目を丸くするベロニカ。
「事前に教えてくだされば、準備も出来たというのに」
「せめて、夕食を豪華にしていただくとか……」
「今日では、細工物も用意出来そうにないですね」
三者三様といった様子で悩みだす護衛たちにベロニカは慌て出す。
「まてまて。お前たちは何を悩みだしているのだ」
目の前の食事に手を伸ばさず唸っている三人に声を掛ける。すると、リダが顔をあげて真っ直ぐベロニカを見る。
「なぜ、って。ベロニカ様の誕生日でしょう!? それなのにお祝いもしないなど、仕える者として……」
「普通、生まれた日は祝うものなのか……?」
修道院にいた頃には祝われたことなど一度もなく、ただただ神に生まれたことを感謝するように教わっただけだったベロニカ。普通とは違うことを自覚しているものの、あまりの驚きように呆気に取られるしかなかった。
「誰か侍女に申し付けて……」
今にも立ち上がりそうなリダを引っ張って席に着かせる。
「落ち着け。バルトも、な」
申し訳ありません、と小さく呟くバルトを見てベロニカは微笑む。
「初めてだが、誰かに生まれた日を特別に思ってもらえるのは嬉しいものだな」
ベロニカはグラスを握りしめて、順に顔を見ていく。
「お前たちが祝ってくれようとする気持ちだけで十分だ。ありがとう」
溢れるうきうきするような気持ちに、心が暖かくなる。
「こんなに思われて私は幸せ者だな」
もう一度だけ、みんなと出会えたことを神に感謝した。
ベロニカ生誕祭2012