二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

白黒の喜劇

INDEX|1ページ/1ページ|

 

会議は踊る。
何処の誰だか知らないが上手い表現をしたものだと思う。
まさしく奴らは踊っている、くるくる回る独楽のように。
会議の隅っこでぼうっと纏まらない議題を眺めていた黒髪の男は、視界の端に憎たらしい金髪碧眼を見止めて眉を顰めた。
会議の休憩時間にその男がこちらにやってきたなら、尚更。
「たまにはボードゲームでもしないか、王耀。」
紳士くさい言動に吐き気がする。それでも勝負を捨てることはどことなく悔しくて
「構わねーあるよ、あへん。」
勝負を受けてしまったのは自分の意地のせいだろうか。

「チェスでいいか?控え室にチェステーブルがあったはずだ。」
移動した控え室で手際よく駒を並べていく男をつくづく気に食わない奴だと改めて認識する。ボードゲームなどという回りくどい言い方をせずに最初からチェスと言っていれば断ったものを。
「お前が先手、これくらいのハンデはやるよ。」
チェス、なんてやりなれてはいない。ハンデをつけられるのは癪に障ったが妥当だろうとも思う。
与えられた黒駒をこつこつ爪で弾く。
陶器製なのか良く馴染んだ手触りがするそれをひとつひとつ盤面に置いていく。
頭の中で古い古い兵法を引っ張りだしながら戦う、それくらいしか出来ることはない。
ああ苛々する。何故我はこんな奴の誘いを受けてしまったのか。
言葉のないゲームはこつん、こつんという駒の足音だけで進んでいく。
「チェックメイト。」
金髪の男が言うのと同時に黒髪の男は降参、とでも言いたげに両手を挙げた。
「チェスで我が勝てるわけねーよ、相変わらず卑怯ね、あへん。」
「その名で呼ぶな、勝者は俺だ。」
その言葉に何かを感じ取ったのか黒髪の男は胡乱な目を金髪の男に向けた。
「お前は何がしたいのかさっぱり分からんあるな。」
「敗者は勝者の言うことを黙って聞けばいい。」
「は、横暴にも程があるね。そんな態度あの子に見せたら百年の恋も冷めるだろうに。」
それに少しばかり反応してしまったのを黒髪の男は見咎め、くだらないとでも言いたげに吐き捨てた。
「なんだ、あの子のことあるか。」
「最近あいつに近づいているらしいな、王耀。」
最早隠す気もなく、金髪の男は敵意を剥きだす。
「外交で近づいて何が悪いね。私情と公務も区別がつかん程餓鬼ではあるまい。」
「あいつに縁を切られたお前が近づく権利はないと言っている。」
その言葉にくっ、と堪えられないように噴き出すのを不機嫌な目で見つめた。
くつくつ笑んでひとしきり嗤った後に出たのは侮蔑。
「お前らはあの子が手に入ったとでも思っているのか?」
馬鹿馬鹿しい、と笑う。そんな訳がないだろう、と。兄でさえ食いつぶすあの子を手に入れるなんて、と。
「お前らはきっと裏切られる。」
牙を抜いたつもりでも、獣の牙は爪はよりいっそう鋭く生え代わる。
「お前らが大事に大事に育てた牙で、あの子はお前らを喰い殺す。我の時よりずっと獰猛に、貪欲に。」
そうして欲張りにもあの子は骨だけ残すのだ。
ぺろりと美味しい所を平らげて、けれど骨はしゃぶらない。
「ハゲワシだって骨まできちんと頂くというのに。」
だからつめが甘いと言われるんだよな、どこか郷愁を帯びた物言い。
それに黒髪の男は再びくつくつ笑って、
「あの子は待つのが趣味あるよ。骨だけ残した獲物が再び美味しい肉をつけるのを待って、そしてもう一度いただきますと手を合わせるある。」
銀糸や金糸で為された刺繍が美しい袖で口元を覆う。
黒い髪の下から覗く黒い瞳が素敵だと、昔誰かが言っていたような覚えがあるが冗談じゃない。こいつの眼はぎらぎらと炎のように輝いていていっそ恐ろしい程だ。
彼の弟(と、目の前の男は言い張っている)は同じ黒でも涼やかな眼をしていた。温度のない、かといって冷たくもない瞳。
あれは中身のない色だったのだろう。
兄のように何を求めるでもない無欲な色。
「あいつがそんなことをするものか。」
欲のない、茫洋とした何処も見ていないような黒の瞳を思い返す。
それに似ても似つかない真っ黒がにい、と唇を吊りあげた。
「だからお前はいつまで経ってもあの子と歩けないあるよ。」
がちゃん、チェステーブルが行儀悪くもひっくり返された。金髪の男が重厚な木製の脚を横に蹴り飛ばしたためである。
白も黒も鮮やかに混じりあい溶け合うこともなく転がっていて、今しがたそれを為した本人は忌々しそうに白と黒の駒達を眺めている。
反対に黒髪の人影は駒などどうでもいいと言わんばかりに遠くを眺めていた。自分の手を離れて遠く遠くへ行ってしまった可愛い子供を思い出すかのごとく。
椅子にかけたままの男達は互いの有する、かつての黒をこよなく愛していた。ただそこに現在の黒はない、それだけのことだった。

作品名:白黒の喜劇 作家名:nini