二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

seata.

INDEX|1ページ/2ページ|

次のページ
 
 からんからんと音を立てて落ちていった缶を見ながら、脚をぶらぶらとさせる。下を通っていた人間に当たったのか、何かを怒るような声が聞こえていたが気にはならなかった。けれど、あまりにも煩い為静かにすればいいのにとまだ中身の入っていたペットボトルを傾ける。
 中に入っていた琥珀色の液体が夜の色を取り込みながら落ちていく。空になったのを確認し、そのペットボトルから手を離した。まだ何か下から怒声が聞こえてきたが意識の外へと押し出す。重力に従うよう暗い底へと吸い込まれていったプラスチックの事などすぐ忘れて臨也は首を傾げた。
「何で人は俺を愛さないんだ?」
 信奉されるのか嫌悪されるのか、または警戒されるか。それしかない。もしかすると、あったのかもしれないが気付かなければ意味が無いものだ。記憶の中に、柔らかな感情で、温かな好意を向けてきた人が見付からない。
「俺はこんなに人を愛しているのに」
 とてもとても愛しすぎて、片時も忘れないくらいに愛しているのに、人は臨也を愛さない。理解して欲しいとは思わないが、愛して欲しいとは思う。
 どんな形であっても、折原臨也は人を愛しているのだ。
 だから。
 人は折原臨也を愛さなければいけない。
 人ならば、愛すべきである。
 折原臨也は人を愛している。
 ゆえに人は同様に折原臨也を愛すべきである。
 鏡に望むように滑稽なほど、同じく愛せと命令をしながら臨也は訳が分からないと首を捻った。何故人は臨也を受け入れず、理解せず、愛さないのか。臨也にできて、他人にできない筈は無いと思う。
「おかしいよね」
 首を傾げながら手を広げて空を見上げる。真っ黒な何もかもを吸い込んでしまいそうなその空は臨也を拒むかのように月を包んでいた。
「人じゃないなら愛さなくてもいいけど」
 人でないならば、興味はないし愛そうとも思わないから、愛されなくてもいいのだけれど。そう言ってから思い出すのは、いつも不機嫌そうな顔をした彼。
 平和島静雄。
 不機嫌そう、どころではなく険悪な仲だ。
 彼が、折原臨也を嫌うのは分かる。
 彼は、人ではないからだ。

 化け物ならば仕方が無いと思う。

 化け物ならば、臨也を愛せなくても仕方が無いのだ。人でないのならば、愛し返せとは思わない。けれど、臨也の中から消えずにずっと主張し続ける静雄の存在が気になって仕方ない。愛し返せとは思わないけれど、気になるのだから、彼は臨也を意識し続けなければならない、と思う。
 滑稽な考えが浮かび、臨也は取り出したナイフをぱちり、と音をさせて刃を空へと翳した。
「シズちゃんに会いたくなっちゃった」
 くつくつと笑いながら臨也は空の月へと手を伸ばす。それは決して届く事は無く、月は冷めたように臨也を見下ろしている。
「どうしてかなぁ」
 平和島静雄に会いたくて仕方が無い。
 人でないから愛したりしないし、愛さなくてもいいと思っているのに臨也の中からは消えてしまわない。それどころか、会いたくなる。
 会いにいけと命令する本能に従うよう立ち上がった。



 会いたくない時には会ってしまい、会いたい時には会えないもので、ふらりとうろついて見るものの全く出会えない。いらない時には会えてしまうというのに、肝心な時に会えないとなると不愉快な気持ちが湧き上がる。
「折角きたのにねー」
 無駄足だった、と踵を返した途端、不穏な空気が辺りに満ちて臨也は後ろを振り向いた。そこには見るものによっては背筋が冷えて震え上がるような表情をした『平和島静雄』が立っている。
 望んでいたその姿を見つけて、臨也の口角が釣りあがる。
「イィィザァヤー」
 腹の底から響くような声音で名前を呼ばれて臨也は嬉しそうな表情を浮かべて、静雄を見た。今にも髪を振り乱して、その場にいる全てをなぎ倒しそうにしているその雰囲気はよく見知ったもの。

 赤いなぁ、と思う。
 赤くて、金色。

 臨也を真っ直ぐ射抜くような眼光が好ましいと思う。人でない彼にそんな事をされても嬉しくも何ともない筈なのに、どうしてか嬉しい。
 望むものを与えられて上機嫌になった臨也が静雄へと向かい歩いていく。
「池袋には来るなって言っただろが」
「喧嘩しに来たんじゃないって」 
 みしりと不穏な音を立てて引っこ抜かれた標識をどこか冷静に見ながら臨也は両手を広げて笑い始めた。
「じゃあ帰れ」
 一秒たりとも居るな。今すぐ消えろ。
 腹に響く重低音で言われた臨也は、人好きする笑みを浮かべて首を傾げる。大抵の人間ならば、騙されてくれるこの笑顔は静雄に通用しない。その事が嬉しく、そして……忌々しい。
「えー? ……ここにきた理由とか知りたくない?」
「消えろ」
 全身全霊で『折原臨也』を嫌っている『平和島静雄』を見て安心する。
「まあ用件済んだかって訊かれればそうなんだけど」
「消えるから死ぬかどっちか選ばせてやる」
 手に持った標識を振りかざした静雄を見て、流石に不味いだろうと一歩下がり間をあけた。本気で怒らせてしまえば、少しの距離では意味は無いが、予防線は張っておくに越した事はない。
「シズちゃんの事大好きなのに。酷いよね」
 大好きだと言った瞬間、静雄の米神に青筋が浮き上がる。それを見て臨也は嬉しくなった。
 彼だけは、折原臨也を嫌っていい。
 なぜなら、彼は人ではないから。
「でもいいよ。そのままでいてくれて」 
 折原臨也を愛さない化け物のままで。
 そうすれば『平和島静雄』に愛されていなくても不満は無いし、愛されない理由が分からなくても大丈夫。化け物のままでいてくれるなら、愛さなくても許してあげられる。折原臨也の向ける感情に同じように返さなくても許してやれる。
 ずっとそのままでいればいい
 左手に標識を持ち、右手にゴミ箱を持った静雄に危機感を覚えた臨也は跳ねるように後ろへと下がった。おそらく、すぐにゴミ箱が投げつけられるだろう。少しでも距離を稼いでおこうとまた一歩下がる。そして右手をひらひらと振りながら静雄に向かって笑いかけた。本日の目的は達成したのだ。会話をしたかったわけでもなく、ただ顔が見たくなっただけ。
「でさぁ、今日はシズちゃんに会いにきたんだよね」
「来んな!」
 頬の横を通り過ぎていったゴミ箱が派手な音を立ててどこかの壁にぶつかる。通行人の悲鳴など聞こえないふりをして、臨也は両手をポケットに突っ込み軽いステップで転がった人や物を飛び越えるように跨いだ。
「そんな事言わないでよ」
 つれないなぁ、と首を傾げてポーズを取った臨也に、更に苛立った静雄が手近にあるものを振り上げ投げつける。ごぉ、と音をたてながら飛んでくる物をひょいと避けながら臨也は楽しそうに飛び跳ねた。
「うっぜぇ」
「また来るから。じゃーね」
 飛んでくるそれらを全てすり抜けて、臨也は悲鳴のような怒号をあげている静雄を尻目にその場から走り出す。それを許さないというような静雄の怒号とがつんと何かが壊れる音から逃げるように臨也は人垣を走り抜ける。追いかけっこを楽しむのもいいけれど、今は高揚したまま眠りにつきたかった。



「ねぇ」
化け物のままなら愛さなくていいよ。
……人になるなら僕を愛さなければならない。
作品名:seata. 作家名:遊瀬.