Angel Beats! ~君と~
「ゆりッペさん、音無さんは仲間に出来ましたか?」
「当たり前じゃないのよ」
二人は旧校舎内の廊下を並列になって歩いていた。
『旧』と付いているが校舎内は綺麗だ。いつも用務員さんが休みの日に手を抜かず欠かさずやっているからだろう。
「脅しましたか?ゆりッペさん」
「私、そんな事をする人間だと思って―――」
「思っています」
「即答じゃない。私達は『約束』を守っただけよ」
『約束』というのは昨日の放課後、音無とゆりがみんなの前で宣言した事だ。
「ああ、あのアホなやり取りですか」
「ねえ、今アホって言わなかった?」
「いいえ、あの間抜けで馬鹿で呆れて言葉が出ず、アホとしか言い様が無いなんて誰が言いますか」
「ちょっと、遊佐バカにし―――」
「そろそろ校長室に着きますよゆりッペさん」
どうこうしている間に目的地に着いた。
ガチャン
「あ、ゆさゆさ」と遊佐に声を掛けたのは関根だ。
「しおりんさん元気でしたか?」
遊佐は適当に関根をあしらうと部屋の隅へと行った。
「Wahoooooooooooooo!!」
TKはヘッドスピンをしながら二人を迎えた。部の中で一番ダンスが上手いらしい。
当然のように、ゆりは何も無かったように校長のフカフカな椅子へと座った。
「さて、音無君も加わったし作戦会議を始めるわよ!」
「何の作戦なんだゆり?」
「何ってポジション決めよ」
「ポジション決めですか」
高松はダンベルを持つのを止めると床に置いた。
「野球は基本的にここに居る全員でやるわよ!」
「ゆりッペ、野球のルール分かっているのか?するのは9人だぞ。ここに居る奴ら合わせると10人以上になるぞ」
「そんな事分かっているわよ日向君。後の残りは代打や選手交代でもさせるわよ」
「おいおいゆり、そんなんで良いのか?」
「とりあえず私は監督に決定よ」
「ゆりッペが監督か・・・・何か不安だな」
「日向君、ちょっとこっちに来て。顔に何か付いているわよ」
「え?何処?」
ゆりに指摘されると日向は顔を触り始めた。
「もう、仕方ないわね」
ゆりは校長の椅子から立ち上がると日向に駆け寄った。
そして日向の顔を見つめた。
「な、な何だよゆりッペ」
ゆりは右手を振り上げると思いっきりパーで日向の顔の真ん中へヒットさせた。
「ヴえ゛!!?」
「だ~れが監督不安ですって日向君」
顔を手でさすり、ゆりの顔を見ると怒りに道溢れていた。反撃の手段を考えたが逆に返り討ちにされそうだ。例え反撃出来たとしても野田は黙っては居ないだろう。
結局どちらにしても返り討ちにされるだけだ。
「ひはひ(痛い)、ゆりッペこんな事しなくても」
「罰として日向君がポジション・決・め・て・ね」
『ええええええええええええーーーーー!?』
「ちょっとオメェ達何で『ええええええええーーーーー!!』って言うんだよ!」
「ふぅん、お前じゃ務まんねえよ!ゆりッペの方が良いぜ!」
断然に野田はゆりの忠誠なる犬(下僕)だからしょうがないが他の皆はそうは行かないようだ。
「浅はかなり」
「ゆりッペさんの代わりなんて務まるのでしょうか?」
「絶望のCarnival」
「日向君が・・・・・・・」
「大丈夫なのか?」
「どうなんだろうしおりん?」
「さあ?ひさ子さんはどう思う?」
「別に。岩沢は?」
「さあ?」
「どうしたものか・・・・」
「どうでしょうかね」
「血迷いましたかゆりッペ!」
「はん、ひっでぇ言われようだぜ!」
「愚民が務まるのでしょうか?」
(ぬぅおおおおおおおおおおおおおおおお!!!何で、何で、何故だぁぁぁああああああああああああああああ!!!可愛い顔して、直井ひっでぇよぉおおおおおおおおおおおおおお!!!)
もう悔しい何かと何かと悲しい何かと何かが混沌と化していた。なにが何だか分からない。
日向は地面にうずくまった。もう顔をしばらく見せられなかった。
「おいおい、待てよお前らそんなに言う事は無いだろ!」
(お、音無・・・・・・!)
まさに日向にとって音無は救いの舟。いや、天使のように思えた。
「日向はとりあえず仮にも野球経験者だ。多分、ゆりはそこを見込んで日向を選んだんだ。そうだろ、ゆり」
「ええそうよ」
「うう、そうだったのかゆりッペ・・・・」
そう言うと日向は立ち上がった。泣いていたせいか、目の周りがひどく腫れていた。
「音無ありがとう。俺の見込んでた通りだぜ。それにさ、初めて会った時から結構お前のこと気にいってたんだ」
「お前、『コレ』か?」
音無は右手の甲を左の頬へとくっ付けた。
「違ぁぁぁあああう!」
「日向君そんな趣味が・・・・・」
『気持ち悪・・・・・・・』
「みんな誤解だぁぁぁぁああああああああ!」
必死に否定したが、日向の『コレ』説は学校中に広まったとか広まっていないとか・・・・・・・・。
作品名:Angel Beats! ~君と~ 作家名:幻影