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まんじゅう
まんじゅう
novelistID. 43064
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いつまでも変わらないもの

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事務所に呼び出された俺は、久し振りに社長室に向かっていた。

万年いっぱいのスケジュールがたまたま空き、それを狙ったかのようなタイミングで慶介から連絡があった。
それは、
『拓実さんにお願いしたいことがあるから来てほしい』
だいたいそんな内容だった。
急にいったいなんなのか気になるが、幼馴染の頼み。仕事もちょうど空いているし、たまの頼みを聞いてやろう!とやってきたわけだ。

(最近、仕事仕事で慶介には会ってないからなぁ)

そんな懐かしい気持ちになりながら社長室のドアを開ける。

ガチャ

「慶介、入るぞー」
「おはよう、拓ちゃん」

拓実は固まった。

何故なら視線の先にいたのはこの養成所社長ではなく、社長の補佐をしている―といったら聞こえはいいが、実際はここの実権を握っている―葵だったのだから。

「な、なんでお前がここにいんだよ!」
「何でって、僕が拓ちゃん呼び出したんだもん。当然でしょ?」

何をおかしなことを、とでも言うように拓実を見る葵。
その言葉に拓実は、はぁ?と思わず声を上げる。

「俺は慶介に呼ばれてここに来たんだ。お前に呼ばれた覚えは・・・」

その言葉に葵は笑顔で答える。

「それ、僕だから」
「は?」

話が読めない拓実に、葵はだーかーらー、と話をつなげた。

「堀之内のフリして僕が拓ちゃんにメールしたの。だって、こうでもしないと僕の頼みなんて拓ちゃん断るでしょ?」
「絶対断る」
「ほら」
「・・・・・・じゃなくて!確かに慶介のアドレスから送られてきたぜ?」

拓実はメールが送られてきたとき、しっかり送信元を確認したハズだった。

「拓ちゃん。今の時代、メールなんかいくらでも送信先偽れるんだよ?」

拓ちゃん簡単に詐欺にひっかかちゃうね。とのんきにに言う葵。

「・・・・・・いや、お前それは犯罪だからな」

呆れて怒ることもできない。
そんな拓実に気づいたのか、葵は言った。

「ん?あ、別に僕はそんなことやってないよ?さすがにそんな技術ないし」
「はぁ?じゃぁどうやって送ってきたんだよ」
「そんなの簡単だよ。堀之内のパソコンから拓ちゃんにメール書いただけ」
「社長のパソコン勝手にいじってんじゃねーよ!!てか慶介も何普通に触らせてんだよ!!」

目一杯叫んでから、ふと来た目的を思い出した。

「てゆーか、お前何の用で呼び出したんだよ」

拓実はそう言って来客用のソファーにドカッと腰かけた。
普通社長室でこんなことは出来ないけれど、今社長は不在だし、社長が居たところで幼なじみの彼には同じことだろう。
そう思いながら拓実の「コーヒー!」との声におとなしく従った葵は、さきほどの拓実の疑問に言葉を返した。

「そうそう。堀之内が今講師をやってるのは知ってるでしょ?」
「あぁ・・・そういえば言ってたな、そんなこと」

そこまで言葉を交わしてから葵が「はい」と言いながら拓実にコーヒーを渡した。
拓実は黙ってそれを受け取ると、一口啜った。

「それで?」
「その子達、第2のバレットスターになれる素質はあると思うんだよ」
「バレットスター・・・ねぇ」

5人でアイドルをやっていたころを思い出す。
あの頃は大変な仕事も多くて、皆反発しあってばかりいた。
当時は最悪だと思ったこともあったけど、あれはあれで良い経験だったんじゃないか。
今では拓実もそう思えるようになった。

もともとアイドルになりたかったわけではない4人――つまり拓実以外は、今はアイドルを引退しそれぞれの道を歩んでいる。

「なーんかすっごい昔のことのように感じるな・・・」
「まぁオーディションが10年前だし、デビューしてもすぐ解散したからね」
「そーだなー・・・」
「で、その子達なんだけど・・・・・・結構一筋縄ではいかなくてね」
「俺達の時よりか?」

自分で言うのもおかしいが、自分たちもかなりアクの強い方だったと拓実は思っていた。
自分はともかく、慶介は通常とブラックとを行き来していたし、言い出しっぺのジロは空気の読めない失言魔王。
その兄貴分の英治には行き過ぎた兄弟愛に誰もが引いたし、目の前にいる葵は大好きな少女漫画で興奮すると我を忘れる。
・・・今思い返してみても酷いメンツだ。
拓実は眉根を寄せた。

「僕たちより酷いかもね。個性的すぎるっていうか・・・」
「ふぅん・・・。で。俺は先輩として、みっちりそいつらをしごいてやれば良いってわけだ」
「そう。さすが拓ちゃん、伊達に29年生きてないね~。まぁ、見えないけど」
「年と見た目のことは言うんじゃねーーー!!」





「じゃあ引き受けてくれるよね?」
「ったく、どうせ断ったって無駄だろ。ちょうどいいからそいつらでストレス発散してやるぜ!」

(変わってないなぁ)

周りの環境が変わっても、年を重ねても。
芯の部分は全く変わっていない拓実を見て、葵は薄く笑った。