Wizard//Magica Wish −1−
「はぁっはぁっ…」
夜。
深夜だというのに今だに人が賑わう繁華街の路地裏で一人の女学生が自分へと忍び寄る何かから逃れていた。長い時間走っていたためか、かなり息が上がっており、少しでも走るスピードを緩めると身体が動かなくなってしまう程疲労が溜まっていた。
そんな彼女に後からコツ…コツ…と足音をたてながら何者かが歩みよっていた。
「いそいで なのは!もう奴はすぐ傍まで来てるよ!」
「で、でもっ!はぁっ…はぁっ…ど、どうしようキュウベぇ!!」
彼女の足元には白い身体で犬…いや、猫のような実体を持った生物、キュウベぇが並走する形で一緒に走っていた。無論、キュウベぇは地球に存在する生物ではなく、外宇宙からやってきた地球外生命体なのである。
「なのは…最悪ここは応戦するしかないかもしれないね」
「で、でも!はやてちゃんだって一瞬であの人にやられちゃったし、私じゃ…」
「君ならきっと奴を倒せる!大丈夫、なのは の魔力は はやて以上に…っ!!なのは、気を付けて!!」
「え?…きゃあ!!」
突然、後ろから魔力で出来た縄が彼女を拘束し、その場に勢い良く倒れてしまった。縄を解こうとしても一向に解ける気配はない。
すると、後ろから黒いローブを身にまとい、顔に仮面を被った男がゆっくりとこちらへ歩いてきた。
「ようやく捕まえた…さて、おとなしく君の『ソウルジェム』を頂こうか」
「あ、あなた一体誰なんですか!!?なんで はやてちゃんのソウルジェムを!!」
「ソウルジェムが欲しいだけ、それだけだ」
「っ!!それだけで…たったそれだけの理由ではやてちゃんを…絶対に、…絶対に許せない!」
「え?…っ!!」
彼女の身体は光出し、仮面の男が気付いた時にはそこに彼女の姿はなかった。
前をみても後ろを振り向いても姿が見えない…。一体どこに姿を消したというのだろうか。
「…前にも後ろにもいない…ということは…っ!!」
「上です!!」
「なっ!!」
突如、仮面の男目掛けて桃色の魔力波が上空から降り注がれた。魔力波が降り注がれた当り一面は煙や瓦礫が落ちる音でいっぱいになり、彼の生死は不明である。
「やったね なのは!」
「うん、多分これで大丈夫…かな…」
彼女はキュウベぇと『契約』をした『魔法少女』である。
学校の制服から白を主体としたロングスカートと胸元にリボンを施した服装になり、彼女の右手にはいかにも魔法少女が使用していそうな杖を所持していた。その杖の矛先には彼女の魔力の源でもある『ソウルジェム』が装着されている。
彼女は空を浮遊しながら仮面の男を倒したか確認する。ちなみにキュウベぇはいつの間にか彼女の左肩に乗っていた。
「多分大丈夫…だよね」
「やったね なのは!奴を倒したんだね!」
「う、うん…」
彼女は自分が仮面の男を倒した…かのように見えた。
が、微かに何かが自分の耳に入ってくる。
人の声ではない…なにか…。
−ルパッチマジックタッチゴー!ルパッチマジックタッチゴー!…−
「な、なに…この…声?」
「どうしたんだい、なのは?」
−『ビッグ』プリーズ!−
自分の瓦礫の下から声、のような音が聞こえてくる。
彼女は杖を構え、おそるおそるその音の元へと近づく。
…その時!!
「さっきのは本当に焦ったなぁ、けど、一秒余裕あったからギリギリよけられたけどね」
「っ!!」
「えっ…きゃあぁぁぁぁぁぁ!!!!」
突然、目の前の瓦礫から自分の身体の数倍はある『手』が彼女の元へと降り注がれ、無残にその下敷きになってしまった。キュウベぇはその危機にいち早く悟ったのか、彼女の左肩から一瞬で逃げ、その巨大な手から逃げたのである。
瓦礫の中から身に付いた埃をほろいながら仮面の男が現れた。巨大な手の正体は彼自身の手だったのである。手の下敷きになった彼女は今までの疲労がたまっていたためか、痛々しい声をあげながらその場に倒れている。
そんな彼女に仮面の男は微動だにせず、彼女の右手に持っていた杖を奪った。
「か…返し…て…わた…し…の…ソウルジェム…返して…!!」
「悪いな、これは俺が貰う」
仮面の男は杖の矛先に装着されていた赤い色のソウルジェムを取り、腰に巻かれていた『手』の形をしたベルトを作動させた。
「な、な…に…を…」
「大丈夫、別に痛くないよ」
ベルトを作動させた瞬間、先ほどの奇妙な歌…いや、『ラップ』と例えれば良いか、とにかく先ほど彼女の聞いた歌が流れ始め、仮面の男は右手の中指に装着していた『指輪』をベルトにかざした。
「『リボーン』プリーズ!」
「…うっ!!!!」
指輪をベルトにかざし、今度はソウルジェムに向かって右手をかざした。するとソウルジェムはゆっくりと形を変え、仮面の男が右手に装着していた指輪そっくりな形へと変化した。
それと同時に彼女に衝撃が走ったかのように気を失い、魔法少女の姿から普段の制服の姿へと戻ってしまった。
「ふぃ~…、うん、なかなか良い指輪ができたな。さてと…」
「ちょっと待ってくれないかい?」
「ん?」
仮面の男は何事もなかったかのようにその場をあとにしようとした。
だがその男を止めるように今度は前からキュウベぇが男を止めた。
パートナーである彼女がやられたのに顔色一つ変えないのがなんとも恐ろしい。
「これ以上、素質のある魔法少女を襲うのは正直困るんだよね。なのは もなかなか見込みのある魔法少女だったのに、また探さなきゃいけないじゃないか」
「……で?」
「いい加減、魔法少女を襲う行為は止めてくれないかい?大体、なんで君が魔法を使えるんだい?魔法を使えるのは…!!」
男はどこから取り出したのかもわからない銀色の銃をキュウベぇ目掛けて放った。一切の迷いもなく…その場に残ったのは無残にも肉体の破片と化したキュウベぇの変わり果てた姿だけである。
そして、仮面の男は再び歩き始めた。
「さて、この街も大体の魔法少女のソウルジェムを頂いたな…次は…見滝原市かな…」
仮面の男は自分の身に施されていた変身魔法を解き、何事も無かったかのようにその場を後にする。繁華街へと出た男は人ごみの中へと消えていった…。
作品名:Wizard//Magica Wish −1− 作家名:a-o-w