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はろ☆どき
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空と海の間に【冬コミ新刊サンプル】

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【Chasing hearts 】01




「あんたの夢が叶ったらいつか海に行ってみようぜ」


 そう言って自分の夢を叶えた少年はまた旅へと出かけて行った。
 四方を他国に囲まれたアメストリスから海へ行くには、つまり国境を容易に渡れる世の中にしろということで。
 絶大な期待とプレッシャーをかけられたものだと、ロイはその言葉を思い出す度に苦笑して、そしてほんのり誇らしい気持ちになった。


 宿願を果たして枷のなくなったエドワードは、ようやく故郷にでも腰を落ち着かせるかと思いきや、負い目からも義務からも解放された身軽な身体で再びあちこち飛び回っていた。
 最後の錬成で扉と共に手放した膨大な情報の代わりに、己自身で身の程に見合う、けれど広い知識を習得したいのだという。
幼いと言っていいほどの頃から見続けていた者としては、世界の存亡を揺るがすほどの経験を経て、ほんの数年で成長したなという感慨深さと相変わらずの貪欲さに、彼らしさは一つも損なわれていないと安堵を覚える。
 きっと若者は皆そうやって既に未来に向かって進んでいるんだろう。
 彼らが立ち止まらずにいられるような社会にしていくのが我々大人の義務であり希望でもある。
 彼がいつも屈託なく笑っていられるような、そんな日常を作ることが。


東方でイシュヴァール政策に明け暮れていた頃は、ごくたまにエドワードがリゼンブールに寄る途中などでふらりと立ち寄ることがあった。
 国家錬金術師の資格は返上していたからさすがに司令部においそれとは入れない。
 ということで何故か…というより必然的な勢いで大抵ロイの家に転がり込んでいた。主にロイ所蔵の文献目当てだ。決して宿代を浮かせたい訳ではなく。たぶん。
 以前は求める情報が人体錬成や生体錬成に特化していたが、今は興味の範囲が幅広いので未だにそれなりに読むものがあるらしい。
 興味があるついでにあちこちで文献を手に入れてくるので、彼が寄る度に書斎に積まれた本が増えている始末だ。
「リゼンブールに保管しておけばいいのに。必ず行く所だろう?」
「んー。でもあそこはオレんちじゃないからなー」
 幼馴染みの住むロックベル家が所謂彼にとっての「家」のようなものかと思っていたが、実家のような感覚ではあるが自分の家という認識ではないそうだ。
 弟のアルフォンスにとってはそうなっているようだが。
「なんかあそこに行くと懐かしい気分にはなるんだけど、訪ねて行くって感じなんだよな」
――あいつらはおかえりって迎えてくれるけど。師匠のところもそんな感じ――
 彼は未だに帰るべき家をみつけられないようだった。


そんな彼がただいまと言ってロイのところに来るようになったのはいつ頃だったろう。
 ロイの所蔵の本棚に、時々こっそり彼が増やしてくれている文献が火や気体に関するものが多いと気づいて、なんとも言えない気持ちになったのもその頃だったかもしれない。
 昔から見守ったり背中を押してやりたい存在ではあったけれど、旅に出かける彼を見送りながら無事に自分のもとへ帰ってくることを願うようになったのはいつからだろう。
 庇護する義務があった頃とは違う感情になっていたような気がする。
 いつの間にか彼も「いってきます」と言って旅立つようになっていた。
そんな行き来がロイが昇格してセントラルに居を構えてからも続いていた。
 エドワードの増やした文献はそのままロイの新居に移動したので、彼の寄る先がセントラルになったのは自然な流れだったが、この頃にはもうリゼンブールに寄るついでではなく訪れるようになっていた。
 文献以外の彼の持ち物も随分増えていた。


ある時エドワードから相談を受けた。
「そろそろ旅暮らしを少し落ち着かせようと思うんだ。行きたいところはたいがい行ったし、知識も文献も揃ってきたし。旅で見聞きしてきたこととか錬金術とかに関する執筆みたいなことをしてみようかと――」
 見るからに質素倹約に過ごしてはいたが、軍属時代に貯めた軍資金で一生暮らせるわけでもない。それに社会に貢献することも大事なことだ。
「それでさすがに部屋を借りようかと。近くでいいとこあったら紹介してもらえないかと思ったんだけど、ここら辺けっこう高くて」
 ロイの住む辺りは軍の高官や要人も多い、いわゆる高級住宅街なので相場が高いのは当然だ。
「文献とかあんたのとこにあるから近い方がいいと思ったんだけど。いや、文献も引き取れるようなとこ借りるべきなんだけど」
 珍しく遠慮がちにもごもごと気まずそうに言うのが不思議で、当然のように提案を投げかけてやる。
「ここに住んだらいいじゃないか。どうせ君の持ち物が山のようにあるし、空いてる部屋もいくつかあるし。君の文献を置いてる部屋に机を入れて書斎にしたらいい」
 別に他意はなく、もちろん下心もなかった。その時はほんとうに。
 しかし何故かエドワードは目をそわそわと泳がせ耳が赤くなっていた。
 だが半分当てにしてはいたようで、さらにごちゃごちゃと言い訳のようなことを言いつつも提案に同意してくれた。
 何故かとてもほっとした。
 たぶんこれで彼にも家ができたと、単純に喜ばしく思っていたのだろう。
 それがエドワードにとって、そして自分にとってどんな意味を持つのか考えてみもしなかった。
その時には。
 それくらいロイの中では自然なことだと思っていた。




そうして二人の同居生活が始まった。
冷たい大地から新芽が伸び、花が綻び始める頃のことだった。