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とある世界の重力掌握

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「あの騎士たちは、あれでしばらくは意識は戻らないはずだ。今の内に、高杉の無限移動で戻ろう 」

「本当、人使い荒すぎだぜ。俺たちのリーダーは。帰ったら取りあえず寝させてくれよ? 」

高杉の手が2人に触れる。

「とりあえず作戦は成功ってことで良いんだな? てことはようやく..... 」

「ああ、今度こそクリスを取り戻す。クリスをあのふざけた親から取り戻すんだ! 」

決意を胸に護たちは飛ぶ、クリスの母ラミアがまつアイルランドの修道院へ。

<章=第三十話 とある海峡の騎士戦士>


エバーフレイヤ家当主であるジェラルドは、巨大な施設の一室で長椅子に腰掛けていた。

彼の居城はすでに『聖騎士団』により押さえられている為、アイルランドには戻れない。

そこで、現在彼は世界で唯一、現実的に中立を守ることが可能な国。スイスにいた。

どの陣営にも属さない、アルプスの自然の要害に囲まれた、世界でも例を見ない本当の意味での永世中立国。それがスイスに対して人々が持つ一般的なイメージだろう。

だが実際の所、そんな綺麗な中立などありはしない。第2次世界大戦の頃から敗北した国の要人の避難場所。犯罪組織のマネーロータリングの中継地として機能することでスイスは中立という立場を維持できたと言える。

ジェラルドも『タラニス』の組織力を生かし、スイス政府と裏での繋がりをもつ事で、その国内にタラニスが所轄するちょっとした軍事要塞を築いていた。

「それで、ロンドン塔を襲撃したのは『ウォール』の連中で間違いないんだな 」

「はい。イギリスにいる構成員からの報告から考えてもほぼ間違いないでしょう 」

「しかし、奴らはなぜわざわざイギリスに喧嘩を売るような真似をしたのだ? 」

「それについてですが。一つ気になる情報がございます。塔から脱走した囚人の中に、少女の吸血鬼がいるとの報告がありました。またデータによるとこの吸血鬼はアイルランド出身との事です 」

執事長ベネットの言葉に、ジェラルドの顔が驚愕に染まる。

「まさか、奴らがロンドン塔か
ら連れ出したのは...... 」

「ええ、恐らくですがクリス様の最後の妹であらせられますセルティ様かと思われます 」

「随分と行方を探しても見つからなかったのはそういう理由か....となるとすこし計画を変更せねばならんな、クリスの覚醒を急がねばならない 」

「しかし、ジェラルド様。クリス様の急激な覚醒の促しは下手をすると....... 」

「かまわん。今は多少のリスクは冒しても急がねばならん。ベネット、お前は『神話空間』の準備を急げ 」

「は、直ちに 」

一例して部屋を出ていくベネットに目もやらずジェラルドは虚空を眺めながら呟いた。

「奴らをこれ以上放置するわけにはいかんな......さあ飛び込んでこい愚か者ども。特上の罠を用意して待っておるぞ 」

冷たく重い空間に、ジェラルドのくぐもった笑い声が響きわたった。


「お疲れさま。でも遅かったわね。あなた達最下位よ 」

イギリスの騎士派との戦いから戻った護たちにラミアがかけた第一声がこれだった。

「最下位って競争とかじゃあるまいし......ていうかなんでラミアさんだけしか修道院にいないんです? 」

「タラニスの現在地が掴めたのよ。だから先に戻ったメンバーは騎士団の部下たちと共にもうそこに向かってるのよ 」

「タラニスの現在地が掴めた? 今まで尻尾を掴むことも出来なかったのに.....で、どこなんです? 」

「またイギリスに逆戻りとかは勘弁だぜ? 」

疲労困憊を全身で表している高杉にラミアはゆるりと首を振って否定する。

「安心してイギリスではないわ 」

「あっそう。なら良かっ...... 」

「タラニスのメンバーはスイスにいるわ 」

「はあ......ってはあ!? ちょっとまてなんでスイス? 奴らの計画はそんなところじゃ出来ないだろう? 」

「ええ確かにそうよ。だからこれは私たちへの挑戦と見るべきね。 ロンドン塔をあなた達が奇襲してセルティが私たちの方で確保されてしまったから無理にでも私たちを潰そうと考えた....こんなところじゃないかな? 」

「だとしたら、敵が準備満タンで待ち受けている所に罠と知りながら飛び込んでいくことになるわよね.....まあ、それは今までも同じだったけどね。それにしても、ジェラルドって奴はよほど自信があるのかしら。もう住んでたお城はないのに 」

首を傾げる美希にラミアは一枚の用紙を差し出す。

「そこに書いてあることを読めばジェラルドの自信の理由がわかるわよ 」

「え?と何々....ふんふん....は?....ええ!? 軍事要塞!? 」

「そう、タラニスはスイス国内に第2次大戦時に築かれていた要塞を改築して拠点の1つにしているようなの。あいつらスイス政府とも裏のコネクションを築いていたようね 」

ラミアはため息をつきつつ用紙を美希から受け取る。

「仮にも永世中立国が、一陣営と手を組むなんてあってはならないんだけど.....綺麗な中立なんてありはしないってことね。まあ、というわけであなた達には『騎士団』が用意した特別機でスイスまで行ってもらうわ。準備が出来たら伝えて」

そう言って修道院の院長室に入っていこうとするラミアを護は慌てて呼び止める。大事な事を忘れていたのだ。

「な、なに? 」

「実は特別機の機内に眠れるスペースを作っておいて欲しいんです。 仲間の1人が疲労でぶったおれそうなんで 」

「無茶いうわね.....でも分かったわ。必ず用意させるから待っていて 」

安堵のため息をつく護の背中を高杉がなにかを敬うような目で見ていた。

「リーダー。あんたを初めて神だと思ったぜ..... 」


というわけで一行は特別機でスイスへと飛び、スイス国内にいる『騎士団』の協力者たちが経営する旅館に辿り着いたのである。


「私、スイスって始めてだけど本当綺麗なもんね。こんな風景某アニメでしか見た事ないわ 」

「なに?気なこと言ってんだよ。 これから俺たちはあのアルプスの山ん中の要塞に突っ込むんだぜ? 少しは緊張感もてよ 」

「まあ、確かに景色は綺麗だけどね 」

「リーダー! 」

てなことを話している護たちは、旅館の3階の窓から外の景色を眺めていた。

この旅館。なぜか会員制であり、護たち以外の客がいない。旅館の経営者曰く、『騎士団』の方から資金が送られて来るから大丈夫なそうなのだが、それならわざわざ旅館にしなくても......と思う護だった。

「さて、景色も満喫したようだし。突入作戦の計画を立てるわよ! 」

旅館のロビーに置かれた長机に地図を広げたラミアが意気ようようと告げる。

「私たち聖騎士団は、正面から強行突破をはかり、一気に要塞に突撃すべしと考える。敵の居場所が分かっている躊躇う必要はないわ 」

「貴女は、本当に騎士団の長か? そんなリスクを冒さずとも、我々のメンバーのゴーレム使いたちに地下道を作りださせて向かったほうが早いと思うんだか? 」
作品名:とある世界の重力掌握 作家名:ジン