Another Beats!
第5話
「へー……野球あるんだ……」
「学校だからな。あるに決まってる」
生徒会長と少女はベンチに座って缶珈琲を飲んでいた。ここ何ヵ月間、少女の好きにさせていた生徒会長はそろそろか、と思い少女を誘ったのだ。
「お前のやりたい事はもう終わったか?」
「有り難うね、会長さん私に付き合ってくれて。そのお陰様であと一つになったよ」
「良かったな……で、何だ?」
「野球」
「よし、分かった。NPCに―――」
「会長さんと一対一でね」
死後の世界でも存在する野球チームのレギュラーを呼ぼうかと思ったが、口から出た言葉は『一対一』。
「良いのか?」
「うん。それでもう私は卒業出来ると思う」
この体格でか?、と疑問に思ったが仕方無い。
それでこの世界から卒業出来るのなら。
「野球に思い入れあるのか?」
「私はね、やってたんだ野球。投手」
「そうなのか」
「証明したかったんだ、女の子でも出来るんだって。私ってちょっと間が抜けてるし、野球しか取り柄が無かったんだけどね。始めてみて楽しくて、楽しくてしょうがなかったんだけど、肩を壊しちゃって……」
どこか似ている―――
そう生徒会長は無意識の内に親友を重ねていた。その親友も野球が好きだったらしく、生前にもやっていた。
甲子園で簡単なセカンドフライを取れなく、この世界に来たのだとか。
最後にはこの世界から卒業する事が出来た。
女の子の願いを叶えるために――――。
「?会長さん…?」
「え……ああ、ごめんな。前のヤツも…好きだったな、って思っててさ」
「そうなんだ。で、どうする?いつ野球する?」
「今に決まってるだろ。行こうぜ、空いている場所があるから」
二人共ベンチを立ち、少女は生徒会長を追った。
立派な広さ、金網の扉を入り少女は思った。
「ルールは?」
「簡単だよ。三回投げた内、どちらかがヒットを打てば勝ち。決着が付くまで交代して投げまくる。どう?」
「OKー、了解。先行は……ジャンケンで決めるか」
ジャンケンの結果、生徒会長はバッター。少女はピッチャーになった。
二人共、体操着を着用せずにやろうと言う。投げて打つだけだからそんなに支障は出ないだろうとのこと。
そうして、ピッチャーである少女はグローブを左手に付けマウンドに上がる。
生徒会長はバットを片手に左のバッターボックスへと入った。
「行くよー!」
「さあ、来い!」
合図を出すと少女はサイドスローでボールを投げた。
文章中では、ただ『投げた』しか書いているがそれはあくまで動き。
少女の右手から投げられたボールは、あの小さい身体から放たれる様なスピードではない。プロ野球選手を超えているか、いないか、生徒会長は野球中継を観たことがなく解らないがNPCを余裕で超えていた。
(な―――!?)
驚くも、バットを振るが当たりはしなかった。
気付いた頃には後ろでボールが跳ね返る音がした。これでワンストライク。
「……嘘…だろ?」
「へっへー、どーだかいちょーさん!」
有り得なかった。本当にあの少女が投げたのか、解らない。だが、紛れもなく少女がこうしてまず一球を打たせなかった。
生徒会長は足下に転がり来たボールを右手で取り、少女に投げ渡す。
生徒会室では泣いて何処かへと行く前にあのドアを蹴破る勢いは一時的な超人の力ではない事が証明された。
(これじゃあ……アイツの為にならないよな)
相手側は本気でやっている。
これでは報われはしない。こちらも本気でやらなければならない。
などと考えている内にもうスリーストライクとなってしまった。
作品名:Another Beats! 作家名:幻影