Another Beats!
第6話
二人共、投げて投げて投げ続けて、どれ位の時間が経ったのだろうか。
「はぁ……はぁ…」
「はぁ……なぁ…休憩しようぜ。持たないぞ、このままだと」
生徒会長は一旦、少女に停戦協定を持ち掛けそれを受け入れた。
少女はピッチャーマウンドからバッターボックスへとフラフラになりながらも歩く。
「ぁー……死んだ後でも…、疲れるん、だね……」
生徒会長はスピードもそれなりに速く、イヤらしく少女の苦手な所に投げてくる為に中々決着が付かない。
「五感は……備わって、いる、から……な…あた……り前だ………」
言葉を出すのがやっとだ。
今まで全力投球しスピードを保っていたのが嘘のようだ。
予め持ってきている500mlの水入りペットボトルを少女に渡す。生徒会長ももう一本あるので力が無さそうに蓋を開ける。
「ふぇ……今何時ごろ?」
「そうだな……5時位だな…」
「会長さんって強いんだね……ここまで続くなんて思わなかったよ」
「死んだヤツらの中で野球をやりたいって言ってたのが居たからな。それでだ」
ごくり、と二人の喉が鳴る。
「会長さんは仲間が居たんだっけ?その人達ってどうだったの?卒業させるのが難しかった?」
そうだな、と生徒会長は言葉を置き、
「あるヤツには、自分の過去と向き合う勇気が必要だった。あるヤツには、夢を叶える努力が必要だった。あるヤツには、長い時間と仲間が必要だった」
あの生徒会長が見せた顔は最初に見たあの時の表情だった。
会長さんは、一体何者なんだろう――――
「そっか……ありがとう、教えてくれて。私には夢を叶える努力が今必要だね」
でも、と置いて、
「今は会長さんを倒さなきゃね…」
疲れているにも関わらず笑顔で返す。
「……俺もお前を全力で倒す」
後、一球で決着が付く、そんな気がした。
息も整った事だ、これで何回でも投げられる。
これで、願いが叶う。
これで、卒業出来る。
二人は同時に立ち上がり少女はピッチャーマウンドへ向かい、生徒会長はバッターボックスへと立つ。後、一回でストライクを取れば少女と交代し生徒会長がピッチャーになる。
少女はピッチャーマウンドの土を少し足で弄る。
(絶対に……)
生徒会長は右手首でバットを回す。
少女は相当疲れている筈、ここで打てば決着は付く。
(これで……)
少女は振りかぶる。
ここでストライクを取れば、次で打てる。生徒会長も同じく疲れている筈、楽にヒットが取れる筈だ。
((決める!))
少女の手から最高のボールが投げられ、空気を裂きながら音速並みの速さでど真ん中へと進んで行く。
そして、音の高い金属音が大気に響き渡り紅く染まった太陽にボールが吸い込まれていき消えていった。
力が身体から全て抜け落ち、生徒会長はバットを杖代わりにし自身の体重を預け、少女はピッチャーマウンドの中心に尻餅を付いた。
決着は付いた。
(勝った…)
(……負けた)
作品名:Another Beats! 作家名:幻影