Another Beats!
最終回 忘れたくなくても
「あーあ……負けちゃったよ~」
悔しくも、何だか清々しい気分だった。
サヨナラホームランと言うのはこの事か、と思った。
「でも、ありがとう……会長さん…」
「どうってこと無いさ」
太陽が落ちかけ、夕焼けとなっている空はあの頃を思い出させた。女の究極の幸せを叶えられた、夢を叶えられた女の子の事を。
そして、あの夕陽の中、気が済むまで泣き叫んだことも――――。
これで、全ての願いが叶った少女はこの世界から卒業出来る。
もう、会えないのかな―――
「………」
少女の頬に一筋の涙が伝っていった。
「どうした?泣いたりなんかして」
「……かいちょーさんに…もう会えないかと思うと………なんか…悲しいよ……」
「なに言ってんだよ、卒業だぞ?晴々しい舞台だぞ」
「うー……」
「だからもう泣くなって。お前は死ぬんじゃないんだぞ?生まれ変わるんだ。そして、時間が流れるまま、老いていくんだ」
「……うん…」
ぽんぽん、と右手で少女の頭を撫でる。
「かいちょーさんは卒業しないの?」
「そうだな……俺はまだまだ簡単に卒業は出来ない。お前みたいなヤツが来るからな………それに…アイツが……、アイツらがまた来たら導いてやりたい」
再び仲間が来るということは天文学的確率――――、それ以上に難しく、可能性が限りなく0に近く、逢えないとは言えず逢えたとしてもそれは幾億の星の数分の1の数値(あたい)。一億年、もしかしたら何兆年、不可思議年と待っても逢えないかもしれない。
そんな事は生徒会長(じぶん)自身が良く解っている事。だが天使……、いや前生徒会長が不器用ながら伝えたかった事を死後(ここ)の世界に来た青春をまともに過ごせず未練を残した者達に伝える為に、生徒会長はここに居る。
二度と、戦いを起こさない為にも―――――。
「そっか……逢えると良いね、その仲間達に。来たら宜しくって伝えてね」
「ああ、分かった。ちゃんと伝えるよ」
「……、会長さんと会ったことは忘れないよ」
「忘れるさ…」
「絶対に、意地でも忘れないよ。それと、会長さんが卒業するまで、あっちで待ってるよ」
「逢える訳……無いだろ。60億人も居るんだぞ…。それに必ず人間に生まれ変われる保証なんてものは無いんだぞ………」
「大丈夫だよ。あっちの世界は広いようで狭いんだから。それに人間になれなかったとしても……忘れないよ……」
記憶というモノは脆(もろ)く忘(こわ)れやすい。運が良く人間に転生したとしても、結局忘れてしまう。
生徒会長と一緒にアホな事をやったり、生徒会長に良くしてもらったり、生徒会長に願いを叶えてもらった事――――、全部忘れてしまう。
その上での覚悟なのだろう。
「まあ、そうだな………。ところで、お前の名前聞いていなかったな」
「そういえば……私も…」
「ははは、お互い様だな。俺の名前は――――」
少女は――――――――。
「また…、あの夢…」
小さい頃から時々見ていた、薄く、惚(ほう)けたあの夢が今になってまた見るようになっていた。あの日までは見ることなんて無かったのに……。
その夢は私が、あの女の子になっていて、あの女の子のしたかった事をしていて生徒会長はその女の子の為に協力してくれた。
決まっていつも生徒会長の名前を聞く前に目が覚めてしまう。
「くぅ…あーぁ……」
思いっきり背伸びをして、布団から立ち上がるとパジャマから制服に着替えた。
いつも思うんだよね、この制服って結構良いんだよね。
『ほらー、りーん部屋から出てー。朝御飯が出来たよーー』
「はーい!今行くよー!」
部屋の襖を開けるとパンの焼けた匂いが漂ってきた。ゆっくりと歩いてリビングに繋がるドアを開けるといつもながら、おかあさんが朝ごはんの用意をし終わっていた。
「おはよう、凛」
「おはよう、おかあさん」
「そうそう、いつも話しているオオヤマ君?紹介してね」
「いつかね!」
生徒会長さんと、女の子へ
卒業出来るように祈っています。
Another Beats! END
作品名:Another Beats! 作家名:幻影