Angel Beats! ~君と~
第49話
――――心臓が無い
――――は?
―――――俺の心臓はその『天使』に持って逝かれたって事。心も
「ったく、無茶しやがって……歩けるようになったの嘘か?」
「申し訳ありません。痛くなかったのですが…」
また足を痛めてしまい結弦におぶられている遊佐は申し訳無さそうにしていた。
やはり遊佐は軽すぎる、背負っている結弦は月で照らされている道を歩きながら本気で心配をしている。
(にしても……)
長さが定まっていない草を踏みながら、ふと背中に何謎の違和感を覚えていた。
柔らかくて、何か弾力性のある何かが。
例えるならマシュマロ。
二つのマシュマロを口に含んで歯で潰し、マシュマロ独特の柔らかさと甘さを楽しんでいるのだ彼は。
つまり何が言いたいのかというと―――――
「音無さん?」
(―――!これは……っ!!!)
やっと気が付いた男は思わず足を早足をしてしまう。
初めて遊佐を背負った際には何も無かった筈なのに。
余計に二つのふにふにしているものを味わう事を知らずに。
(落ち着け!落ち着くんだ!!まずは肩甲骨辺りに全神経を注いで楽し――――違う違う!!これじゃあ俺が変態じゃないか!!)
「もしもし?」
(まてまて無意識!?いやいや……そんな筈は無い!!遊佐に限ってそんな―――)
遊佐の問い掛けが全く耳に入っていない。
今の頭の中で何が起こっているのか解らずに、脳が勝手に背後の総ての神経を張り巡らせている。
「音無さーん?」
(初音もお世話になっておりますし、そのような事があろう筈が御座いません!!)
※今、何かが爆発しています。
(まずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずい!!!)
「音無さーん。もしもし?」
「へ!?あああごめんなさい!」
「何がです?」
「いやいや本当にごめんなさい!!」
「?」
何を言っているのか解らない遊佐は首を傾げる。
そして一方の彼は誠意を示し精一杯心から謝り、罪悪感と言う名前でありながらも一度ハマってしまったら脱け出せない中毒性の高い甘い果実を食べる事にした。
だって人間だもの。しょうがない。
甘いものは時に生活習慣病の糖尿病の引き金となり、時には食さなければ気が押さえられなくなり、あるいは麻薬の様に危険性が高いものなのだから。
その果実である本人は全くもってその自覚が無く結弦が何を喋っているのか理解が出来なかった。
「なあ、遊佐」
「はい」
「降りら」
「無理です。だからこうしてもらってるのじゃないですか」
ふにふにと押し付けられ、更には降りない…降りられない……まさに絶体絶命!!!
「やはり重いですか?」
「いや…むしろ軽いって……」
果実に緩やかにゆっくりと全身の感覚を毒され、もう何がなんだか判断出来ない状態になりつつも夜道を歩き続けるのであった。
「(もう…諦めよう……)結構歩くな…遊佐を旅館に連れて行くのにも遠いしなぁ…」
「もう後戻りは出来ないと言うわけです。観念して私を連れて行って下さい」
何故、後戻りが出来ない程この夜道をおんぶして歩いたのか。
そもそも、再び足を痛めた時点で帰れば良かったものをわざわざここまで歩き続ける必要があったのか。少なくともメンバーの中でアホでない結弦の頭でチャーの家へ戻るという選択肢はあった筈なのだ。
何故、ここまで苦労してしまったのか。
理由は単純、最初に遊佐を背負った瞬間から毒が回り尽くされていたからだ。
果実を食べたのはこれで二回目だという事に気付いていないのは紛れもない結弦であった。
「遊佐って軽いよな。大丈夫か?」
「大丈夫です。それに太っていれば幸せという時代はもう無くなりましたし」
「…そうだな。ごめん」
何かに疲れきった結弦は溜め息をついた。
「溜め息をすると幸せが逃げますよ」
「大丈夫」
「……(背中温かい)」
話とは関係無いが、結弦の背筋は高松程ではない。
年齢詐称し、引っ越し業者に就いたり工事現場、その他肉体労働した事があるのでそこそこは肉付いている。
つい前までは学業に励みながらも初音の為に、手術の為に、お金を稼ぎ身体を無意識に鍛え上げられていたが医院長の元に引き取られ身体の筋肉は衰えていた。
が、衰えたとはいえ未だに健在している。
「………」
「そいやさ、アリガトないつも初音の相手にし…?」
妙に変だと思い首を限界まで捻(ねじ)り遊佐を見ると目を瞑り、すぅ……すぅ、と静かに寝息を立てていた。
(まあ、こんな時間だし仕方無いか……ん?)
やけに騒がしいな、と思い視線を前へ移すと何故か全員がこっちに向かい、土を巻き上げながら全力疾走している。
「やっほー!じゃね!!」
団体様の一人で入江を背負っている関根が結弦に声を掛け、素通りして行く。
(どうした…?)
――――胆試し…だよな?
遊佐に相談しようも寝ている為、掛けにくい、かと言って走って付いていってしまっては起こさせてしまう。
中には白く所々が土か泥の様に黒く染まっている胴着を着ている背が一番大きい一人が居たが特に気にもせず、ボーゼンと去っていく仲間を黙って見送った。
「うわぁー…みんな速いよぉ!待ってーーー!!」
「天使は疲れない……ぜぇ、ぜえ……」
「直井さん汗だくだよ…あ!お兄ちゃん!助けてえええええ!!」
「おっとなっしすぁーーーーん!!」
(何があった……)
蒸し暑い夏に脳がやられたとしか――――と考えている内に左足に直井が、右足に初音がいつの間にかガッシリと離さんばかりにくっついている。初音は慣れているものの、直井に関しては何故か悪寒が走り、懐かしい様で懐かしくない感じがあった。
取り敢えず訳を聞いてから冷静に対処しようとしたいところだ。
「…、あー……その、何があった?とにかく離してくれないか?」
「「イヤだ(です)」」
「……」
一言が頭に浮かぶ。どうしようもないと。
そこで大体十m位の所で結弦の目に赤黒い何かが服と顔にべったりとこべり付いている髪の長い人らしきものがゆっくり近づいてくる。
「あああああああ!?お兄ちゃん逃げて!」
「音無さん私に構わず逃げて下さい!」
多分、迫ってくる何かに怯えて
「逃げるも何も…お前らが離れないからどうしようも出来ないんだが。それに、」
迫り来る長髪の人のあのワンピースと言い、身長、雰囲気、どこかで見たこと感じたことがある。
それは、砂浜で寝そべって塩辛い喉を我慢し、話した相手。
「あいつ…霧島?なんで顔に変なのがあんだ?」
「「え?」」
三人が唖然としている間にも、その霧島は身動き取れない結弦に力無くぶつかり、『う…!?』と声を上げ地面にしりもちを着く。ついでに霧島の顔位の紅い何かが特典として彼のTシャツにへばりついた。
作品名:Angel Beats! ~君と~ 作家名:幻影