許されぬ
「あーあ、負けちゃうね、僕たち。」
白い雲に覆われた空と雪に見合わぬ赤。
赤い雪に埋もれたイヴァンは言う。
「今のうちに殺しちゃった方がいいんじゃない?」
愛する人を、
【Ненависть слова】
<嫌いな言葉>
「ねぇ、菊」
雲一つ無い夜。
縁側に立ちながら薄い月明かりに照らされた貴方はとても美しかった。
氷の彫刻。
生きているかの様で、冷たい。
「綺麗だね、」
「月と向日葵の組み合わせも中々ですね。」
「ううん、違う」
「え、?」
「陳腐かもしれないけど、君の方が綺麗だ」
月を背負って微笑む貴方は使者なのだろうか。
月からの使い、すると私はかぐや姫。
ああ、月まで連れて行ってはくれないだろうか。
憧れて届かないあの青白い二人だけの世界----
「ねぇ、菊」
「なんでしょう」
「夏風に僕のマフラーは似合わないよね」
「…はい」
いくら暑くても手放さないマフラーを私に
解かせるという合図。
貴方に、貴方の熱に触れていいんですね。
マフラーに手をかける。
首筋に手が触れて、脈を感じる。
あぁ、この人は氷じゃない。
温かい、愛しい愛しい。
「ねぇ、菊」
「なんでしょう」
「君の全てが欲しいよ」
「イヴァ、」
「ごめんね、反対意見は認めない」
それは貴方の台詞じゃないでしょう。
可笑しな人だと笑う。引かれるように
マフラーをほどいていた手首を掴んで
引き寄せられる、唇を塞がれる。
…熱い、吐息。
あぁ、なぜにこうも幸せなのだろう。
「…、何故ですか、」
あの夜とは真逆の今日。
白い雲に覆われた白い空、地面に伏せる貴方、太陽にすら照らされない二人、血塗れの私、傷と血で汚れた貴方、きっちりと軍服に身を包む二人、
冷たい吐息。
黒い夜より醜い白い朝。
「何故、か?君が今僕を殺さなければ君のところの国民がもっと死ぬ事になる。
…たとえ僕が望まなかったとしても」
「そんな事を聞いているんじゃありません!
どうして、どうして…私は愛する人を、」
「…運命だから。国として生まれた運命。
国として生まれた以上、国民を守る義務があるんだよ。それくらい分かっているんだろう?
国民に危害を加えるものは
排除しなければならない。…愛する人でもね。」
頭をよぎるは暖かい笑顔。
花見をして笑う隣の仲間たち、子供。
大日本帝国の名にかけて戦場に赴いた意味。
自ら志願して兵帽で目元を隠したのは、
祖国のためか、敵国のためか-----、
「ああああああああ!!」
身体に跨ったまま刀を振り上げ
頸動脈へ切っ先が沈む----
ザシュッ、
「でき、ない、」
「私は貴方を殺す事なんて、出来ない、」
雪に刺さる刀
涙
静寂
「菊、君は、」
パァン
「イヴァン様!」
「君たち、」
「お怪我はありませんか!?」
「ああ、うん、」
温かい、…血?
菊、?
「銃、打った?」
「イヴァン様が」
「そんな事を聞いているんじゃない、打ったの?」
「…はい」
「直ぐに手当てして」
「は、ですが、」
「僕の言う事が聞けないの?」
「失礼いたしました、直ぐに」
時代の流れと上の大多数の意見に逆らわないこと
僕の感情を逆撫ですること。