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【1/6インテ】普独新刊サンプル【CC大阪92】

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シャワーを浴び、日付が変わったのを確認して廊下に出ると、氷点下の外気が身体にまとわりつく。ぶあつい羽織は風を通さないが、さらしたうなじをつたって体中が冷冽に冷えてゆくのを感じた。
身をすくませながら寝室に滑り込むと、廊下とは打って変わって暖かかった。花のような匂いもする。発源はおそらくサイドテーブルのうえの、小さなアロマディフューザーに違いない。霧のような蒸気がかすかに立ち上って、室内にラヴェンダーの匂いを巡らせている。
はて、こんなものはあっただろうかと思いながらベッドに目をやると、ギルベルトは既にドイツの幅を空けてシーツに埋もれていた。薄いまぶたはぱたりと閉じられている。赤い瞳はあんなにも血のように重く、鮮やかで鋭いのに、閉じてみればまるで穏やかなものである。こういうところもほんとうに、兄さんそっくりだ。ふいに思って、はっとした。ちがう、ちがう、そうじゃない、と言い聞かせるようにしてかぶりを振る。
シーツにもぐりこんでギルベルトに背を向け、ベッドサイドのぼんやりとした明かりを見つめていると、ふいに衣擦れの気配がした。伸びてきた腕に捕らえられ、無理矢理体を反転させられる。いたずらに笑うギルベルトの瞳はくっきり開かれていた。赤い目。あのひとと同じ色。いっとき視線がかち合って、思わず目を逸した。
「いいだろ、これ。安眠効果と鎮静効果があるらしくてよ。これでお前もちっとは落ち着けるかなって思って、この前機械と一緒に買ってきたんだけど」
なるほど、道理で見たことがないわけである。泊めてやっている礼というわけかと、声には出さず、ひとり得心した。金があるそぶりなど見せなかったが、一応は旅人である、無一文というわけではなかったらしい。溜息のようにダンケ、と囁く。
満足げにへへと笑ったギルベルトの腕が伸びてきて、そのままドイツを腕のなかに閉じ込めた。男の腕があやすように背中を叩くと、ドイツは魔法がかかったようにまぶたを落してしまう。
「ギルベルト……明日は一緒に、出かけよう」
男は欠伸混じりのふわふわとした声でおうと答えると、少し手を伸ばしてベッドサイドの明かりを消した。視覚がうしなわれて、かわりに嗅覚が冴える。ラヴェンダーの匂いが鼻腔を抜けて、ドイツの意識はゆるやかに混濁していった。



今朝は、生憎の雨だった。ニュース番組が、ニュースの合間に天気予報を挟んで夜まで晴れ間はないと伝えている。
ドイツは仕方なく、開けたカーテンを引き直した。窓の外は、出られないほどの雨足ではない。それでも傘は必要だ、小雨というには雨粒が大きすぎて、豪雨というには勢いが足りなさすぎる。ごく一般的な、雨模様である。
「……雨、降ってんの」
背後から、不意に起き抜けらしいギルベルトの声がして、いっときびくりとした。振り返って今日は出かけられないなと言えば、瞬きを繰り返しながらギルベルトがカーテンの隙間をのぞく。
「なんだ。このくらいなら問題ねえだろ」
なんでもない顔でそう言って、支度してくるわと再び寝室に引っ込んでいった。ドイツはわずか面食らう。明日でも構わないだろうに、わざわざ雨のなか出かけようとする気が知れぬ。強引なものである。そんなことを思いながらも、ドイツはどこか浮き足立った心持ちで支度を始めてしまうのだった。