好きになってくれてありがとう -ひよ恋より-
「わたしのこと、好きになってくれてありがとう……。」
涙をボロボロにした西山は、俺に精一杯の声を振り絞って言った。
正直、
『振られたショック』
というより、西山の真っすぐさに、心打たれるものがあった。
考えてみれば、人見知りしがちな俺は、孤独を好んだし、周りが馬鹿やっていると、蔑んだりしていた。
でも、
西山の精一杯自分を変えようとする姿に、俺は、自分でも知らないうちに、憧れていたんだ。
そして、好きになった。
西山には広瀬という彼がいたけれど、最終的に自分の気持ちが制御できなくなった。
「オレはコウくんのこと……心配してるんだよ……」
広瀬の台詞に、俺は、広瀬という男の「大きさ」(身長ではなく、こころ)を感じた。
小説なんかで、
「振られた分だけ強くなれる」とか、「優しくなれる」とかいうけれど……
そんな気持ちが少しわかる様な気がした。
西山の「ありがとう」に俺は、笑顔で返すことしかできなかった……
本当は、
「俺こそ、ありがとう」
そういいたかったのかもしれない……
俺はその場を去ると、ふと、後ろに気配を感じた……
まあ、いうまでもなく……
「二戸部君……」
神妙そうな顔つきで俺に伺うのは、中野だ。
「何?」
「その……なんといったらいいのか……私、よく分からないけれど……」
言葉を慎重に選んでいるのは、俺からもすぐ分かった。
「ありがとうな……」
俺は中野にいつもの感じでしゃべると、
「えっ?」
「その……なんていうか、ふりむけば、俺のそばにはあんたがいて、少しその……うざかったけど……そのうざさに救われるものがあったのも事実なんだ……」
「……」
正直に話した俺に、中野は言葉を失う。
「人を好きになるってなんなんだろうな?」
俺が中野に尋ねると、
「……わたしにも、これというものは分からない……。でもね、一つ言えることがあると思うんだ。「人を好きになる」っていうのは、理由づけなんかじゃないってこと、よくさ、
『優しいから』とか、『かっこいいから』とか……そんなありたいていな理由を言うけど……そんな簡単なものじゃないと私は思う……。いや……反対か、「本当は簡単なこと」なんだよ」
「簡単なこと?」
俺が尋ねると、
「うん。「そばにいたい」「知りたい」「一緒にいてここちいい」そう思ったら、『好き』ってことなんだよ。理由なんてない。そんなこといったら、私が二戸部君のこと……」
そういいかけた途端、中野は顔を真っ赤にして俯いてしまう。
「あのさ……前、あんた言ってたよな、『二戸部君が前にすすまなきゃ、私も前に進めないじゃない! 』って……あれってどういうことなんだ?」
「……頭はいいくせに、そういうとこ、本当鈍感! デリカシー無し! それをわたしに言わせるの?」
顔を真っ赤にしていう中野に、
「悪かったな……言いたくなきゃ、言わなくてていいよ。でも、なんだかんだで、世話になったし……その……」
「き……なの」
「えっ?」
「だからその二戸部君のことが……好きなの……」
そう言われた途端、俺の頭の中は固まった。
……好き? そんな……
「もう! 結心といい、二戸部君といい、なんで女の子に言わせるかな?」
両手を腰にあてて、怒ったそぶりをしつつも、顔が真っ赤な中野をみて、
「こんな俺のどこがいいの?」
俺は本来こんな自虐的ではない。
でも、自信がない……。
『好き』っていう気持ちはそういうものなんだ。
「……簡単に説明なんてできないよ……。さっきもいったでしょ? 好きになるって、結構曖昧なものだし……でも、一つ言えるのは、『ひよりを大切にしてくれるから』っていうことかな?」
そういう中野の言葉に、
「俺が……どちらかというといじめていたイメージの方が……」
そういうと中野は首を振り、
「そんなことない……。最初は色々あったかもしれないけど、私は分かる。だって私はひよりの一番の友達だもの……」
……。
俺は感心した。
前々から、西山のことを大切にしていることはわかっていた。
けど、それが『好き』の理由にまでなるなんて正直以外だった。
「西山とあんたって結構似てるとこあると俺は思うんだけど……」
そう俺がいうと、
「それに気付いているのも、多分西部君とひよりと結心くらいだね……」
そう、
中野は、西山に結構依存しているのだ。
修学旅行でもそういうこと、あったし……
「俺……今日振られたばっかで……でも、清々しくて……なんか言ってること、矛盾してるんだけど……そんな中、中野から気持ちを聞いて……正直、悪い気はしないよ……」
どういうべきが躊躇していたけど、これが本心。
まだ、『中野が好き』かなんてわからない……
でも、自分を好いてくれる人がいて、それが俺を大切にしてくれた人なら、気持ちいいことだ。
「うん。それで十分だよ……。いつか、二戸部君のハートをその、射抜いちゃうから、弓で!」
「あんた、弓道部だよな……洒落にならないんだけど……」
「……ううん。絶対だから、覚悟してね……」
そういう中野の顔は太陽のように眩しかった。
『好き』という気持ちは不思議だな。
今までにない世界をたくさん作ってくれる……。
俺は、振られたら、世界は終わっちゃうかと正直思ってた。
でも、こんなにも心が軽いのは、西山と広瀬と……中野の優しさのお陰だ。
俺はこれからに少し期待を持ちながら、家路についた。
作品名:好きになってくれてありがとう -ひよ恋より- 作家名:kureha